令和5年度の国際私法に関連する主な裁判例

(冒頭の + は渉外判例研究会で報告済み又は報告予定の裁判であること、あるいは上訴審判決が報告済み等の理由から報告対象とならない裁判であることを示す。)

 令和5年度重要判例解説(有斐閣)のために横溝大教授(名古屋大学)が収集中の国際私法関連の裁判例を、裁判年月日の新しいものが上になるように掲載した。各裁判例の紹介も横溝教授による。何年度の裁判例として掲載するかについては、上記重要判例解説と若干ずれる場合のあるので、前年度以前のリストもあわせて参考にされたい。

 

- 東京地判令和5・3・27(LEX/DB25594845〔平30(ワ)39761号・平31(ワ)6365号・令元(ワ)27800号〕)
客室乗務員Xら(日本国籍)がY(オランダ航空会社)に対し、地位確認及び賃金等の支払を請求。契約準拠法は日本法だが、最密接関係地法であるオランダ法上の強行規定が適用されると判示(通則法12条1項)。
- 東京高判令和5・2・21(裁判所Web〔令3(行コ)26号〕)
日本国籍を有していたが外国国籍を取得したX1乃至X6と、日本国籍を有しており外国国籍の取得を希望するX7・X8が、国籍法11条1項は違憲であると主張して、日本国籍を有すること又は失わないことの確認等を請求。同規定は合憲だとして、控訴棄却。
- 東京家判令和5・2・6(D1-Law 28310485〔令2(家ホ)332号・令2(家ホ)523号〕)
妻X(日本国籍)と夫Y(米国及びギリシャ国籍)との間で、離婚、慰謝料等、長女A(日米ギリシャ国籍)に関する親権者指定等が相互に請求された事例。管轄肯定。準拠法は全て日本法(通則法27条但書、32条、38条1項但書等)。
- 東京地判令和5・2・3(裁判所Web、令4(ワ)19527号)
XがY(主たる事務所は米国)に対し発信者情報開示請求。Yが日本に居住している利用者に対し、日本語でサービスを提供しており、また、日本から本件アカウントにアクセスし、本件投稿画像の閲覧が可能なことから、管轄肯定(民訴法3条の3第5号)。
- 大阪地判令和5・1・26(LEX/DB25594503〔令3(ワ)30034号〕)
Y(日本法人)のために通訳等を行う旨の契約を解消する旨の措置を受けたX(中国に住所を持つ外国人)が、Yに対し経済補償金等支払請求。準拠法である中国法では(通則法12条3項)、労働法上の使用者は中国企業であり、Yは該らないと判示。
- 大阪高判令和4・12・7(LLI/DB:L07720491〔令4(ネ)1260号〕)
Xが医師Yに対し、YがXの承諾がないまま融解胚移植を行ったことにより自己決定権が侵害されたと主張し、損害賠償等請求。Yの住所が日本にあることから管轄肯定(民訴法4条1項、2項)。準拠法は結果発生地法である日本法(通則法17条)。
- 東京地判令和4・11・15(LEX/DB25593737、令3(ワ)28328号・令4(ワ)13391号)
子Bに殺害されたA(帰化により日本国籍取得)の相続につき、Aの実母XとBが何れもAの単独相続人であると主張し、相続人たる地位の確認等を求めた事例。Bが相続人になれるかにつき、Aの本国法である日本法で判断(通則法36条)。
+ 東京地判令和4・10・20(令3(ワ)389号〔LLI/DB: L07731856〕)(2023-藤澤)
X(米国人)がY(日本法人)に対し、Yと労働契約を締結したと主張し、地位確認及び賃金等の支払等を請求。仲裁合意の準拠法である香港法上当該合意は当然に無効とは言えず、又、個別的労働紛争を対象とする合意とも言えないとして、訴え却下。
- 東京地判令和4・9・27(LEX/DB25594696〔令3(ワ)17278号〕)
Y1社(日本法人)の新聞等に記事を掲載されたX(北朝鮮居住)が、Y1らに対し慰謝料等の支払を請求。準拠法を北朝鮮法であるとしつつも(通則法19条)、同法の意味内容は不明で近似法等からの推認も困難とし、本件と日本との関連性から日本法を適用。
- 東京地判令和4・6・28(LEX/DB25606455〔平30(ワ)39001号・令元(ワ)13820号〕)
X(中国から来日し不動産業を営む者)が、Y1社(日本法人)らに対し、貸金元本及び約定利息等の支払を求めた事例。XとY1社との各契約につき、その準拠法を日本法とすることを選択したとの認定がある。
- 東京地判令和4・6・27(LEX/DB25605977〔令2(ワ)28297号〕)
X(日本人)が、Y1ら(何れも中国国籍)の脅迫により別件訴訟での請求額を減額させられたと主張し、Y1ら、Y3及びY4(国)に対し損害賠償等請求。Y1らに対する請求につき主観的併合を認めるも、特別の事情により訴え却下(民訴法3条の6、3条の9)。
- 名古屋地判令和4・6・22(2022WLJPCA06228002〔令2(ワ)4140号・令3(ワ)4910号〕)
A(ブラジル国籍)の運転する自動車が海に転落した事故につき、Aの相続人XがY(日本法人)に対し保険金等の支払を請求。相続につき、ブラジル法上は最終住所地法が適用されるとし反致を認め日本法を適用(通則法36条・41条)。
- 東京地判令和4・6・14(LEX/DB25606359〔令2(ワ)14029号〕)
Xが、Y1社(日本法人)及びその代表者Y2(フィリンピン国籍)に対し、貸し付けた元本及び遅延損害金の支払を求めた事例。本件各貸付契約の準拠法が日本法であることにつき、当事者間に争いがないとの認定。
- 東京地判令和4・6・7(LEX/DB25606206〔令3(ワ)11525号〕)
行政書士法人Xの代表者が、ナイジェリアにおける石油関連会社のCEO就任を巡り金銭を詐取されたとして、Yら(石油資源連邦省及び石油輸出国機構)に対し損害賠償請求。管轄原因が存在しない上、特別の事情もあるとして、訴え却下(民訴法3条の9)。
- 東京地判令和4・6・1(LEX/DB25606253〔令2(ワ)第33446号〕)
訴外A(ドイツ法人)との間で独占販売契約を締結したX(日本法人)が、Aの代表者だったYに対し、不法行為に基づく損害賠償請求。主契約の準拠法及び仲裁地から、本件仲裁合意の準拠法を英国法とする旨の黙示の合意があったとし、訴え却下。
- 東京地判令和4・5・31(LEX/DB25605921、令4(ワ)303号)
X(英国出身)がY(国際機関)に対し、Yが訴えを提起しY敗訴で確定した訴訟での名誉毀損等を主張し、損害賠償等請求。国際熱帯木材協定7条1項前段の解釈上、Yが裁判権免除を「明示的に放棄した特定の場合」と認めるのは困難として、訴え却下。
- 東京地判令和4・5・25(LEX/DB25605823、令元(ワ)33834号)
フランス判決の一部につき執行判決が求められた事例。Yの主張は、証拠の証明力を弾劾し、外国判決の内容が不当と言うものであるが、公序に係る点(民訴法118条3号)を除き、外国判決の内容の当否は調査出来ない(民執法24条4項)とし、請求認容。
- 東京地判令和4・5・9(2022WLJPCA05098002、令3(ワ)28098号)
ソロモン諸島から清水港への冷凍マグロの運送で生じた損害につきX(台湾法人)が保険代位に基づきY(シンガポール法人)に対し損害賠償等支払請求。船荷証券約款中のシンガポール裁判所を指定する管轄合意条項を専属的管轄合意と解し訴え却下。
- 東京地判令和3・6・2(LEX/DB25600725、令3(ワ)2951号)
XがYに対し、賃貸借契約の終了に基づく建物明渡請求。そのまま認められたXの主張の中に、フィリピンで出生し国籍選択が留保されているYの親権者につき、通則法28条1項・32条、フィリピン国民法255条第1文・311条に依り母Aだとの言及がある。
- 東京地判令和3・11・30判時2543・2544号65頁
Yの元夫であるXがYに対し、XY間の子Aに対するオーストラリアでの監護をYが妨害したと主張し、不法行為に基づく損害賠償等請求。準拠法に関する判断なし。