平成30年度の国際私法に関連する主な裁判例

(冒頭の + は渉外判例研究会で報告済み又は報告予定の裁判であることを示す。)

 平成30年度重要判例解説(有斐閣)のために横溝大教授(名古屋大学)が収集中の国際私法関連の裁判例を、裁判年月日の新しいものを先に記載した。各裁判例の紹介も横溝教授による。前年度以前のリストもあわせて参考にされたい。

1. 平成30年度重要判例解説掲載の裁判例

- 東京高判平成30・6・20(平30(ネ)46号、D1-Law28263411)
原告X(アイルランド国籍)が、夫である被告Y(日本国籍)に対し、離婚、子ら(何れも日本国籍)についての親権者指定、養育費支払い、財産分与、慰謝料等を求めたさいたま家判平成29・11・28の控訴審判決。国際裁判管轄・準拠法については原判決の判断を維持。
+ 最判平成30・3・15(平29(受)2015号、判時2377号47頁・判タ145号35頁・家庭の法と裁判15号65頁、裁判所Web)(2018-10 織田)
米国に居住する上告人X(日本国籍)が、Xの妻であって日本に居住する被上告人Y(日本国籍)により、XとYとの間の二男である被拘束者Aが法律上正当な手続によらないで身体の自由を拘束されていると主張して、人身保護法に基づき、Aを釈放することを求めた事例。Aが自由意思に基づいてYの下にとどまっているとはいえない特段の事情があり、YのAに対する監護は、人身保護法及び同規則にいう拘束に当たるというべきであるとし、また、「国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める人身保護請求において、実施法に基づき、拘束者に対して当該子を常居所地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず、拘束者がこれに従わないまま当該子を監護することにより拘束している場合には,その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り、拘束者による当該子に対する拘束に顕著な違法性があるというべきである」とし、破棄差戻し。
+ 最決平成29・12・12(平28(許)43号、民集71巻10号2106頁・判時2365号70頁・判タ1447号67頁・金商1553号28頁、裁判所Web)(2018-12 早川吉尚)
日本商事仲裁協会(JCAA)が下した仲裁判断に対する取消申立てに関する大阪高決平成28年6月28日の抗告審決定。仲裁人が当事者に対して仲裁法18条4項の事実が生ずる可能性があることを抽象的に述べたことは、同項にいう「既に開示した」ことには当たらないと解するのが相当であり、また、仲裁人が、当事者に対して仲裁法18条4項の事実を開示しなかったことについて、同項所定の開示すべき義務に違反したというためには、仲裁手続が終了するまでの間に、仲裁人が当該事実を認識していたか、仲裁人が合理的な範囲の調査を行うことによって当該事実が通常判明し得たことが必要であると解するのが相当であるとし、破棄差戻し。
+ 最判平成29・12・12(平28(行ヒ)233号、民集71巻10号1958頁、(裁判所web)(2018-05 西岡)
所謂ブラウン管事件に関する東京高判平成28・1・29の上告審判決。独禁法は、国外で合意されたカルテルであっても、それが我が国の自由競争秩序を侵害する場合には、排除措置命令等に関する規定の適用を認めていると解するのが相当である。→当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど、価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には、当該カルテルは、我が国の自由競争経済秩序を侵害する。→本件ブラウン管を購入する取引は、我が国テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が一体となって行ったと評価出来るから、本件合意は、我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者をも相手方とする取引に係る市場が有する競争機能を損なう。→上告棄却。
+ 東京高決平成29・6・30(判タ1446号93頁)(2018-07 横溝)
日本法人である相手方(債権者)が、保険法22条1項に基づく先取特権に基づき、債務者(韓国法人)に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を被担保債権として債権差押命令を申し立て、これが発令されたところ、何れも第三債務者である抗告人ら(韓国法人及び英国法人)が執行抗告を申し立てた事例。債権先取特権の準拠法としては、条理によりその客体である債権自体の準拠法と被担保債権の準拠法とを累積適用するのが相当であるとし、また、被担保債権である公海上の事故に基づく損害賠償請求権については通則法17条は適用されず衝突船舶の旗国法を累積適用すべきであるとして、日韓英国法を累積適用。
- 東京地判平成29・6・29(平27(ワ)30356号、2017WLJPCA06028004)
訴外A銀行(リヒテンシュタイン法人)との間でGIMとの名称の投資信託を購入した原告Xが、GIMについて損害が生じたことにつき、A銀行に適合性原則違反があるとして、当時同銀行のアドバイザー(顧問)であった被告Yに対し、会社法818条2項に基づき、Xが被ったとされる損害額相当額の支払等を求めた事例。本件取引の準拠法はリヒテンシュタイン法であるとしつつ、会社法818条2項は通則法11条にいう「強行規定」に該らないと判示。

2. 重要性の高い裁判例

- 東京高判平成30・10・18(平28(ネ)4525号、D1-Law28264861)
日本の戸籍に父の記載を欠き、母をD(韓国籍)とする記載のある第1審原告X(韓国籍)が、自分は亡B(元韓国籍、日本に帰化)と亡E(日本国籍)の子であると主張して、検察官Yに対し、両名との間に実親子関係が存在すること、及び、C及びDとの親子関係不存在の確認を求めた事例。離婚の国際裁判管轄に関する昭和39年・平成8年最高裁判決に依拠しつつ、「実親子関係の存否確認など相手のある人事訴訟については、被告の応訴の負担に対する配慮など、訴訟手続上の正義の要求から、被告の住所地が我が国にあることを原則としつつも、被告が我が国に住所を有しない場合であっても、原告の住所その他の要素から当該請求と我が国との関連性が認められ、国際私法生活における正義公平の理念にもとることのないように配慮して、日本の裁判所に管轄権があるか否かを判断すべきである」と述べ、具体的諸事情から管轄肯定(但し、亡Bの韓国における前婚配偶者Cに対する親子関係不存在確認請求については管轄否定)。準拠法については、嫡出親子関係につき母の夫の本国法である韓国法によりこれを否定(平成元年改正前法例17条)。非嫡出親子関係につきXとDの本国法として韓国法を適用(法例18条準用乃至類推適用)。韓国法上検察官の当事者適格はD死亡後に限られるとし、Dとの間の親子関係不存在については訴えを不適法と判示。亡Bとの関係では、亡B及びXの本国法として韓国法を適用(法例18条準用乃至類推適用)し、出訴期間(父の死亡後2年)を経過しているとして訴えを不適法とした。亡Eとの関係では、法例17条により韓国法に従い嫡出親子関係を否定、非嫡出親子関係については日本法と韓国法とを累積適用し、出訴期間の制限に関する韓国法は公序に反しないとし、訴えを不適法とした。
+ 東京高決平成30・8・1(金商1551号13頁)(2018-12小川、2020-10佐藤誠高)
JCAAの仲裁判断の取消しに関する東京地決平成30・3・28の抗告審決定。原決定の指摘する点は、仲裁法44条1項8号所定の公序違反に当たる程の重大な手続保障違反には当たらない等として、原決定を取り消し申立て却下。
+ 東京地判平成30・7・24(平29(行ウ)294号、裁判所Web)(2019-12村上)
コロンビア国籍を有する母の子として出生した原告Xが、血縁上の父子関係のない日本国民である男性からコロンビアにおいて認知を受けたとして、国籍法の一部を改正する法律附則4条1項の規定による国籍取得の届出をしたところ、国籍取得の条件を備えておらず、日本国籍を取得していないものとされたことから、日本国籍を有することの確認を求めた事例。国籍法3条1項にいう「認知」も、それが血縁上の父子関係を前提としてされる行為であることを当然の前提として含意しており、当該認知が認知の要件を具備しているか否かを判断するための準拠法のいかんにかかわらず、認知をする日本国民と被認知者との血縁上の父子関係を前提としてされたものであることを要すると判示。仮に私法上有効な認知と解するとしても、法例18条1項により父となるBの本国法として適用される日本法により認知が成立しないとされた。
- 東京高判平成30・7・12(平30(ネ)339号、D1-Law28264108)
スリランカ国籍を有する原告妻Xが、同国籍を有する被告夫Yに対し、離婚、子の親権者及び監護権者の指定並びに子の養育費の支払を求めた事例である横浜家判平成29・12・22の控訴審判決。被告住所地により管轄肯定。スリランカにおいて係属中の離婚訴訟は判断を左右しないと判示。準拠法に関する判断については原判決を維持。
+ 東京高判平成30・7・11(判時2392号3頁、平30(ネ)796号、D1-Law28263569)(2019-07 竹下)
第1審原告X(婚姻時日本国籍、その後米国国籍取得に伴い日本国籍喪失)が、第1審被告Y(検察官)に対し、平成11年11月23日在B日本国総領事に対する協議離婚届の届出(両者の米国国籍取得後)によってされたXと亡C((婚姻時日本国籍、その後米国国籍取得に伴い日本国籍喪失。平成29年1月10日死亡)との離婚が無効であることの確認を求めた事例。原判決と異なり、Xが亡Cから遺棄され、やむを得ず日本を常居所とするようになったことを主たる理由として管轄肯定。
- 東京地判平成30・6・29(平29(ワ)4327号、2018WLJPCA06298004)
太陽光発電に係る施設の開発等を業とする原告X(日本法人)は、シンガポール法人訴外Aとの間で、Xが太陽光発電所の建設・運営事業に関するコンサルティング等を行い、Aが権利金・報酬を分割して支払う旨のコンサルティング契約を締結し、Xと同業の被告Y1(日本法人)がAから上記契約を承継した。Y1がXに対して権利金・報酬を支払わないまま、第三者へ太陽光発電所の事業権を売却し、無資力に陥ったとして、Y及びY1の代表者であったY2に対し、残権利金・報酬乃至損害金等の支払を求めた事例。Y1に対する訴えにつき、シンガポール国際仲裁センターを指定する仲裁合意の効力を認め訴え却下。
- 東京地判平成30・6・22(平26(ワ)31166号、2018WLJPCA06228002)
インターネット上の電子掲示板「2ちゃんねる」を運営していると主張する原告X(日本法人)が、被告Y(ネバダ州法人)との間で当該電子掲示板のサーバー管理を委託する旨の業務委託契約を締結し、Yに業務委託料を前払いしたところ、YによってXが電子掲示板のサーバーへアクセスできないようにされたことがYの上記業務委託契約における債務不履行であり、本件訴状によって上記業務委託契約を解除したと主張し、また、仮に上記契約が存在しないのであればYは法律上の原因なく上記金員を受領したと主張して、Yに対し、上記業務委託契約解除に基づく原状回復請求権又は不当利得返還請求権に基づき、前払いとして支払済みの業務委託料又は業務委託料相当額の返還及び遅延損害金の支払を求めた事例。Yが2ちゃんねるという日本国内で閲覧可能な日本語のサイトの運営主体であったことから、Yは,日本において事業を行う者であり、かつ、Xの本件請求は、Yの日本における業務に関するものであるということができるとして、民訴法3条の3第5号により管轄肯定。契約準拠法についての判断はなし。
+ 東京地判平成30・3・26(平28(ワ)19581号、2018WLJPCA03268007)(2019-07 加藤紫帆)
日本の銀行である原告Xらが、外国国家である被告Yが発行した円建て債券を保有する債権者らから訴訟追行権を授与された訴訟担当者として、Yに対し、当該債券の償還並びに約定利息及び遅延損害金の支払を求めた事例。Yは本件訴訟について我が国の民事裁判権から免除されないとして本案について検討。明文規定がないこと、及び、立法経緯から第三国の強行的適用法規の適用を否定。本件支払延期措置がYの国内で与えた影響を日本法の解釈において事実上考慮することについても、その実質は契約準拠法である日本法の範囲内で第三国法の事実的影響を評価するにとどまらず、日本法の適用を排除して第三国法をそのまま妥当させることにほかならないとしてこれを否定。
- さいたま地判平成30・3・23(平28(ワ)596号、D1-Law28264951)
日本法人における雇用契約終了を巡る紛争に関する事例。管轄判断に関する特別の事情の有無は、諸事情を総合考慮して判断すべきとしつつも本件では認めるに足りないとして管轄肯定。労働契約の準拠法については、黙示意思(通則法7条)、又は、最密接関係地法(12条2項による中国法の推定は覆されるとして)により日本法を選択。不法行為の準拠法については現実に財産権等の法益侵害の結果が発生した地として、現金が持ち出された地である中国法を選択(17条)。
- 東京地判平成30・3・20(平28(ワ)12149号・平28(ワ)23989号、LEX/DB25553141)
原告X(中国法人)と被告Y(日本法人)との間の、コンピュータシステムの企画支援・設計、ソフトウェアの作成等に関する請負契約から生じた紛争に関する事例。反訴事件についての国際裁判管轄につき、Yが管轄の抗弁を提出せずに本案について申述したことから、応訴管轄により管轄肯定。不当利得の準拠法については中国法(通則法14条)、不法行為については日本法(17条)、前提となる債務消滅条項の効力については、準拠法条項に従い中国法を選択。また、不当利得返還請求権の利率については元本債権の準拠法に準じるとして中国法を選択。
- 知財高判平成30・1・15(平29年(ネ)10076号、判例タイムズ1452号80頁、裁判所Web)
原告X(日本法人)が、光配向用偏光光照射装置に関する情報を取得した上、Xを相手方とする訴訟及び保全事件において本件各文書を証拠又は疎明資料として裁判所に提出した被告Y(日本法人)に対し、Yの上記行為が不正競争防止法2条1項8号所定の不正競争に該当する旨主張して、本件情報の使用及び開示の差止等を求めた事例である東京地判平成29・7・12の控訴審判決。違法行為により権利利益を侵害された者が提起する差止め、廃棄及び謝罪広告の請求に関する訴えについては,いずれも違法行為に対する民事上の救済の一環にほかならないから、法律関係の性質は不法行為であり、その準拠法については、通則法17条によるべきであるとし、日本が結果発生地であるとして日本法を選択・適用。
- 横浜家判平成29・12・22(平27(家ホ)466号、D1-Law28264103)
スリランカ国籍を有する原告妻Xが、同国籍を有する被告夫Yに対し、離婚、子の親権者及び監護権者の指定並びに子の養育費の支払を求めた事例。双方共日本に常居所地があることから管轄肯定。離婚準拠法はスリランカ法(通則法25・27条)。親権者指定については、スリランカ法を指定するも(通則法32条)、父のみが親権を有するとするスリランカ法は両性の平等を基本とする我が国の法秩序に根本的に反するとしてこれを排除し(42条)、双方当事者及び長女の常居所地法である日本法を適用。養育費の準拠法は、扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文に基づき、長女の常居所地である日本法。
+ 最決平成29・12・21(平29(許)9号、判時2372号16頁・家庭の法と裁判15号84頁、裁判所Web)(2018-07 早川眞一郎)
米国から日本に移住した4人の子の米国へのハーグ子奪取条約実施法に基づく返還申立てにつき、返還を命じる決定が確定したものの執行不能となった後、相手方が、事情変更により決定の変更と申立ての却下を求めた事例。本件子らが米国に返還された場合の抗告人による看護養育体制が看過し得ない程度に悪化したという事情の変更が生じたとして、実施法117条1項によりこれを変更し申立てを却下。
- さいたま家判平成29・11・28(平27(家ホ)304号、D1-Law28263409)
原告X(アイルランド国籍)が、夫である被告Y(日本国籍)に対し、離婚、子ら(何れも日本国籍)についての親権者指定、養育費支払い、財産分与、慰謝料等を求めた事例。離婚の訴えにつき被告住所地により管轄肯定。親権者指定についても、離婚の訴えに関する管轄の存在と子らの住所地が日本であることから管轄肯定。離婚慰謝料についても、離婚請求の原因である事実により生じた損害の請求であることから管轄肯定。分与処分についても、分与義務者である被告住所地が日本にあることから管轄肯定。年金分割のための請求すべき按分割合に関する処分についても、日本の年金に関する処分であることを理由に管轄肯定。Yが日本に常居所を有する日本人であるからことから、離婚は日本法による(通則法27条但書)とし、慰謝料についても、離婚請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求は離婚準拠法によるべきであることを理由に日本法によるとした。また、親子関係については、同一本国法として日本法によるとした(同法32条)。扶養義務については、扶養権利者である子らが日本に常居所を有していることから、日本法による(扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文)とした。さらに、年金分割のための請求すべき按分割合に関する処分も、日本の年金に関する処分であるから、日本法によると判示。
- 横浜家相模原支判平成29・10・30(平28(家ホ)44号・平28(家ホ)68号、D1-Law28261791)
原告X(元中国国籍、日本に帰化)と配偶者である被告Y(中国国籍)との間で、離婚、財産分与、慰謝料、親権者指定、養育費支払等が問題となった事例。XYが何れも日本国内に生活の本拠を有すると認められることから管轄肯定。また、離婚に伴う財産分与、離婚慰謝料及び離婚時年金分割における按分割合の指定につき、何れも離婚の際の財産的給付に相当するとして、離婚の準拠法に依るとし(通則法27条)、同一常居所地法である日本法を適用。離婚に伴う親権者の指定及び養育費は、子の福祉を基準に判断すべきものであるから、親子間の法律関係の準拠法に依るとし、父と子の同一本国法により日本法を適用(通則法32条)。
- 大阪高決平成29・9・15(判時2372号40頁、家庭の法と裁判16号91頁)
子C(シンガポールと日本の二重国籍)の父である申立人X(シンガポール国籍)が、Cの母である相手方Y(日本国籍)に対し、ハーグ子奪取条約実施法に基づき、Cをその常居所地国であるシンガポールに返還することを求めた大阪家決平成29・6・19の抗告審決定。XのYに対する暴力は、口論を契機とするもので、Yの生命・身体に重大な危険を及ぼす暴力を継続的に行って来たものではない上、シンガポールの個人保護命令にはXのY等に対する暴力等を抑止する効果があった等として、抗告棄却。
- 大阪家決平成29・6・19(判時2372号43頁、家庭の法と裁判16号95頁)
子C(シンガポールと日本の二重国籍)の父である申立人X(シンガポール国籍)が、Cの母である相手方Y(日本国籍)に対し、ハーグ子奪取条約実施法に基づき、Cをその常居所地国であるシンガポールに返還することを求めた事例。子の返還事由があり、返還拒否事由があるとは認められないとして、申立認容。
+ 東京高決平成29・5・19(家庭の法と裁判12号58頁、平成29年(ラ)第203号)(2018-05種村)
カナダ人の両親間において子らの監護権者指定等が問題となった東京家審平成28・12・19の抗告審決定。準拠法については原審判の判断を維持。
- 東京地判平成29・1・13(平(ワ)19090号、D1-Law29038270)
原告Xらが、それぞれ、被告Y1(日本法人)が募集型企画旅行として企画・実施した「地球一周の船旅」という船舶による旅行に参加した際、船舶が洋上でエンジンを停止して旅行の一部に支障が生じたことにつき、主位的には、Y1及び船舶の所有会社訴外A(パナマ法人)の親会社である被告Y2(香港法人)に対し、損害賠償等を求めた事例。XらとAとの運送契約上の履行地は日本国内にあり、Y2に対する訴えは、法人格否認の法理を介して、本件運送契約上の債務不履行による損害賠償請求を目的とするものであることから、民訴法3条の3第1号により管轄肯定。法人格否認の法理の適用の有無は運送契約の準拠法である英国法に依るとして同法理の適用を否定。本件運送契約の契約準拠法を日本法ではなく英国法とすることが民法1条2項の基本原則(信義則)に反するものであるともいえないから、本件旅客運送約款23条が消費者契約法10条に違反するものであるとはいえないとも判示。
- 大阪高決平成27・8・17(判時2375・2376号210頁、判タ1450号113頁、家庭の法と裁判15号110頁)
子のカナダへの返還が求められた大阪家決平成27・5・22の抗告審決定。子が幼児の場合には、子の常居所の獲得については、以前の常居所を放棄し新たな居所に定住するとの両親の共通の意図が必要になると解するのが相当であるとし、留置開始時点の常居所はカナダのままである等とし、抗告棄却。

3. その他の裁判例

+ 東京高判平成30・10・24(平30(ネ)1964号・平30(ネ)3151号、労判1221号89頁、LEX/DB 25566394, 2018WLJPCA10246016, D1-Law28264952)(2021-07藤澤)
日本法人における雇用契約終了を巡る紛争に関する事例。第1審原告X(貸主)と第1審被告Y(借主)の間の本件各物件の使用貸借契約の終了に基づく目的物の返還請求の準拠法は、最も密接な関係があると推定される貸主の常居所地法である日本法であると解される(通則法8条1項、2項)との言及がある。
- 大阪地判平成30・10・4(平28(ワ)4107号、2018WLJPCA10049002)
訴外A社(日本法人)及び同社を吸収合併した被告Y社(日本法人)の従業員であった原告Xが、Yに対し、Aが設定登録を受け、現在Yが特許権者である本件特許(外国の特許を含む。)に関して、平成16年改正前特許法35条3項又はその類推適用に基づき、特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利を含む。以下同じ。)をAに譲渡したことによる相当の対価の未払分の一部等の支払を請求した事例。「外国の特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題については、我が国の法律を準拠法とするのが当事者双方の意思であると認められ、そうでないとしても、当該権利の譲渡の当時において譲渡に最も密接な関係がある地は我が国であると認められるから、我が国の法律が準拠法になるというべきである(法の適用に関する通則法7条,8条1項)」と判示。
+ 名古屋家豊橋支判平30・10・2(平30(家ホ)18号、2018WLJPCA10026002)(2019-12嶋)
原告Xが被告Y(日本国籍)に対し、Xの母A(ルーマニア国籍)は、Yと婚姻中にXを懐胎したが、懐胎当時、AとYが性交渉をもった可能性がなく、XはYの子ではないとして、XとYとの間の親子関係が存在しないことの確認を求めた事例。被告住所地により管轄肯定。嫡出親子関係に関する通則法28条と非嫡出親子関係に関する29条を連続的に適用。ルーマニア法からの反致を認め、何れにおいても日本法により判断、請求認容。
- 東京高判平成30・9・27(平30(ネ)2656号、LEX/DB 25561532、D1-Law28264601)
被告・被控訴人Y1が運営するY1大学医療センターB病院において、医療保護入院の措置を取られた原告・控訴人X(中国国籍)が、医療保護入院は違法であるとして、これに関った被告・被控訴人Y2医師及びY3医師に対し、不法行為に基づき、Y1に対しては使用者責任に基づき、損害賠償を求めた事例。不法行為の準拠法につき、結果発生地として日本法を適用(通則法17条)。
+ 仙台地判平成30・9・26(平29(ワ)1421号、D1-Law28264518)(2019-05 岩本)
プロ野球団Cを保有する原告X(日本法人)は、平成26年シーズンの途中に被告Y(住所米国)と選手契約を締結したが、Yから、米国ペンシルバニア州の裁判所において、平成27年シーズンに係る選手契約の締結交渉をめぐり、損害賠償を求める訴えを提起されたため、XがYに対し、上記損害賠償に係る債務が存在しないと主張して、その不存在の確認を求めた事例。管轄についての判断なし(尚、被告は不出頭)。準拠法については、通則法20条により(!)何れの請求についても日本法であると判示。
- 東京高判平成30・9・19(平30(ネ)2315号、D1-Law28264679)
妻である原告X(日本国籍)が、夫である被告Y(米国籍)に対し、離婚、親権者指定、慰謝料等の支払を求めた事例である静岡家判平成30・3・29の控訴審判決。管轄・準拠法につき原判決を維持。
- 東京地判平成30・9・19(平28(ワ)38565号、裁判所Web)
コンピュータを利用したネットワークシステムの企画,開発,製造,販売及び賃貸等を業とする会社であり、いずれも名称を「表示装置,コメント表示方法,及びプログラム」とする特許権を有する原告Xが、インターネット上でのブログや動画配信サイトの運営等を主な業務としている被告Y2(ネヴァダ州法人)において提供している各プログラムは各発明の技術的範囲に属し、YらによるYら各装置の生産及び使用並びに被告ら各プログラムの生産,譲渡等及び譲渡等の申出は本件各特許権を侵害する旨を主張して,Yらに対し,①特許法100条1項に基づき,Yら各装置の生産及び使用並びにYら各プログラムの生産,譲渡等及び譲渡等の申出の差止めを求めるとともに,②同条2項に基づき,Yら各プログラムの抹消を求め,③民法709条及び719条に基づき,本件各特許権侵害の共同不法行為に基づく損害賠償請求の一部請求を求めた事例。カードリーダー事件最高裁に従い、特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された国の法律であると解すべきであるから、日本国特許である本件各特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は日本法、また、本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求は,Yらが日本国特許である本件各特許権を侵害したことを理由とするものであり,権利侵害という結果は日本において発生したということができるから,その準拠法は日本法であると判示。
- 東京地判平成30・9・14(平29(ワ)17070号、裁判所Web)
被告Y(NY州法人傘下の日本法人)の元従業員であった原告Xが、Yに対し、平成16年改正前特許法35条3項に基づき、職務発明に対する相当の対価の一部等を請求した事例。「外国の特許を受ける権利の譲渡の対価請求権の存否に関する準拠法は日本法となり、外国の特許を受ける権利の譲渡の対価請求権の消滅時効についても日本法が準拠法となる」との言及がある。
- 東京高判平成30・8・22(平30(ネ)2534号、D1-Law28264214)
X(中国所在)が、Y(日本法人)がA社(中国所在)等からコンテナハウス等を購入する代金を立替えたと主張しYに対し支払請求をした事例である千葉地判平成30・4・11の控訴審判決。準拠法については原判決同様。
- 名古屋高判平成30・7・17(平30(人ナ)4号、D1-Law28263557)
被拘束者A(日米重国籍)の父である請求者X(日本国籍)が、被拘束者の母である拘束者Y(日本国籍)に対し、Aは法律上正当な手続によらないでYにより身体の自由を拘束されていると主張して、人身保護法に基づき、Aを釈放することを求めた事例である最判平成30・3・15の差戻審判決。YによるAに対する拘束には顕著な違法性があるとして、請求認容。
- 東京地判平成30・7・13(平29(ワ)5273号、裁判所Web)
原告Xら(カリフォルニア法人及び日本法人)が、被告Yら(デラウェア州法人2社、日本法人、シンガポール法人)に対し、X製品の生産、譲渡、貸渡し、輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)につき、Y1が保有する特許権の侵害に基づく損害賠償請求権及び上記特許権に基づく実施料請求権を有しないことの確認を求めた事例。本件訴えの内容と重複する米国訴訟の存在等を理由に我が国の国際裁判管轄の有無も争われたが、裁判所は、確認の利益がないとして訴え却下。
- 東京地判平成30・6・22(平28(ワ)43704号・平29(ワ)8956号・平29(ワ)15350号、D1-Law28263240)
日本法人である第2事件原告Xが、Xの元取締役で本件各建物を占有する第2事件被告Yに対し、所有権に基づき本件各建物の明渡しを求めた事例。韓国人故Gの遺産分割協議の成否が争われたが、相続準拠法として韓国法により判断(通則法36条)。
- 東京地判平成30・6・12(平30(ヨ)1076号、2018WLJPCA06126002)
歯科医院を開設・運営する日本法人である債権者Xが、ウェブサイト「Googleマップ」を管理・運営するカリフォルニア州法人債務者Yに対し、債務者が管理・運営するウェブサイトに投稿された記事によって債権者の名誉権が侵害されたと主張し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(「プロバイダ責任制限法」)4条1項に基づき、発信者情報を仮に開示することを求めた事例。「債権者の主たる事務所の所在地は日本国内・・・と認められるところ、本件申立てについては,法の適用に関する通則法19条(以下「通則法」という。)により、債権者の常居所地法である日本法が準拠法となり、プロバイダ責任制限法の適用を受ける」との判示。
- 東京地判平成30・4・26(平29(ワ)5274号、裁判所Web)
原告Xら(カリフォルニア法人及び日本法人)が、被告Yら(デラウェア法人2社、シンガポール法人及び日本法人)に対し、XらによるX製品の生産、譲渡、貸渡し、輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)につき、Y1が保有する特許権の侵害に基づく損害賠償請求権及び上記特許権に基づく実施料請求権をYらが有しないことの確認を求めた事例。本件訴えの内容と重複する米国訴訟の存在等を理由に我が国の国際裁判管轄の有無も争われたが、裁判所は、確認の利益がないとして訴え却下。
- 東京地判平成30・4・24(平27(ワ)5992号・平28(ワ)15200号、D1-Law29048535)
原告(日本法人)が、被告Y社(香港法人)との間で、Y社が企画・設計した太陽光集光器の製造をXが独占的に受託し、Y社が販売する事業にXが協力することを合意したところ、Y社の代表者である被告Y2は、Xの当時の代表取締役であった訴外Aに対し、上記合意の際、虚偽の事実を申し述べ、Xに損害を与えた等として、Y1社に対し、損害賠償等を請求した事例。所謂客観的事実説に基づき不法行為地により管轄肯定(民訴法3条の3第8号)。予備的請求につき客観的併合(同3条の6)。準拠法については判断なし。
+ 東京高決平成30・4・19(平30(ラ)125号、LEX/DB25560120)(2019-12岩本)
婚姻関係にある当事者間において、妻である申立人X(中国国籍)が、夫である相手方Y(日本国籍)に対し、婚姻費用の支払を求めた東京家審平成29・12・8の抗告審決定。国際裁判管轄及び準拠法に関する説示は原審判を引用。中国の最高人民法院が作成した養育費に関する規則7条は、一般的な方針を述べたものに過ぎず、また、当事者双方が中国で生活していることを前提として規定されていると考えられるため、これを本件の基準とするのは相当でないと判示。
- 千葉地判平成30・4・11(平28(ワ)2114号、D1-Law28264213)
原告X(中国所在)が、被告Y(日本法人)が訴外A社(中国所在)及びその他の中国企業からコンテナハウス等を購入することにより発生する売買代金をXがYに代わって立替払するとの契約を締結したと主張して、Yに対し、同契約に基づき、XがA社らに立替払をした金額からYがXに支払をした金額を控除した残金等の支払を求めた事例。本件立替払契約の準拠法は最密接関係地法になるとしつつ(通則法8条1項)、XとYが本件訴訟において日本法が適用されることを前提に訴訟活動をしていることから、仮に本件立替払契約において中国法が適用されるとしても、訴えの提起後に日本法を準拠法とすることに合意したと解されるから、同法9条により、日本法を準拠法とするのが相当であるとした。売買契約の準拠法については、準拠法条項に基づき日本法。
- 静岡家判平成30・3・29(平29(家ホ)22号、D1-Law28264678)
妻である原告X(日本国籍)が、夫である被告Y(米国籍)に対し、離婚、親権者指定、慰謝料等の支払を求めた事例。XYの何れも日本に住所があることから、離婚請求につき管轄肯定。また、親権者指定は離婚の成否と一体のものとして行われるべき裁判であることを理由に、離婚事件について管轄を有する我が国に管轄があると判示。離婚の準拠法は日本法(通則法27条但書)、親権者指定についても日本法(通則法32条)と判示(慰謝料については明示的な判断なし)。
- 東京地決平成30・3・28(金商1551号24頁)
申立人X(日本法人)が相手方Y(オランダ法人)に対し、特許クロスライセンス契約に関する紛争に係る日本商事仲裁協会(JCAA)の仲裁判断の取消しを求めた事例。結論を導き出すための論理過程で判断が必要な事実の有無について仲裁判断が何ら言及していないことは、我が国の手続的公序に反するとして(仲裁法44条1項8号)、仲裁判断の一部を取消し。
- 東京家判平成30・3・27(平29(家ホ)91号、D1-Law28264105)
妻である原告X(日本に常居所地を有する日本人)が夫である被告Y(日本に常居所を有する韓国人)に対し、離婚及び親権者指定請求。双方の常居所地が日本にあることから管轄が肯定され、離婚準拠法は日本法とされた(通則法25・27条)。請求棄却。
- 東京高判平成30・3・15(平29(ネ)5253号、D1-Law28261793)
日本人と中国人の間の離婚及び親権者指定等に関する横浜家相模原支判平成29・10・30の控訴審判決。管轄及び準拠法については原判決維持。
- 東京高判平成30・3・14(平24(ネ)第8328号、LEX/DB25560269)
建設作業従事者であった者又は事業主乃至その相続人である1審原告Xらが、自ら又はその被災者らが建設作業に従事し、石綿(アスベスト)粉じんに曝露したことにより、石綿肺、肺がん、中皮腫等の石綿関連疾患に罹患したと主張し、〔1〕1審被告Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、総額約118億円の損害金等の支払を求めると共に、〔2〕国交省データベースにおいて石綿含有建材を製造又は販売していた企業であるとして表示されている株式会社である1審被告企業Yらに対し、民法719条1項前段等に基づき、同額の損害金等の支払を求めた事例。フィリピン人被承継人の相続につき、フィリピン民法を適用し(通則法36条)、「フィリピン民法によれば、全血の兄弟姉妹の相続分は、半血の兄弟姉妹の相続分の2倍とする旨が定められている」として、原告4人の相続分を判断。
- 東京高判平成30・2・8(平29(ネ)2594号、2018WLJPCA02086010、LEX/DB )
所謂従軍慰安婦報道による名誉毀損に関する東京地判平成29・4・27の控訴審判決。「日本法上、Yに不法行為責任は認められないのであるから、コモン・ロー上の要件に関わりなく、Xらの本件各請求はいずれも理由がない(・・・通則法22条1項)」として原判決維持。
- 東京地判平成30・2・6(平28(ワ)34821号、D1-Law29048235)
原告X(ニュージーランド法人)と被告Y(日本法人)がアドバイザリー契約を締結したところ、YがXに対する報酬を支払わないとして、XがYに対し、上記契約に基づく報酬金の一部等の支払を求めた事例。準拠法に関する判断なし。
- 東京地判平成30・1・31(平26(ワ)15243号、LEX/DB25551867)
原告X(インド法人)が、被告Y(日本法人)に対し、為替先渡し契約及び当座貸越契約に基づき、貸付金等の支払を求めた事例。XY間の諸取引の契約準拠法やその解釈について、両当事者は日本法に依る旨合意していたとの言及がある。
+ 東京地判平成30・1・24(平29(ワ)5082号、2018WLJPCA01248004)(2019-03 神前)
香港に居住する日本人である原告Xが、日本法人である被告Yとの間で金員の預託契約を締結したと主張して、Yに対し、同契約に基づき、預託金の返還及び遅延損害金の支払を求めた事例。Yの主たる営業所が日本にあるとして日本の管轄を認めつつも(民訴法3条の2第3項)、「特別の事情」(同法3条の9)があるとして訴え却下。
- 東京高判平成30・1・16(平29(ネ)2356号、D1-Law28260648, WLJ)
訴外A(日本法人)から権利を承継した原告Xが、被告Yらに対し、被告Y1(ケイマン法人)の業務執行取締役(Executive Director)及び会長(Chairman)であった被告Y2がAに対してY1の株式の売却を勧誘するに際し、虚偽の説明等をしたため、Aが錯誤に基づきY1株式を売却して損害を被ったと主張し、Y2に対しては民法709条に基づき、被告Y1に対しては会社法350条又は民法715条に基づき、損害賠償の一部請求等を求めた事例である東京地判平成29・4・14の控訴審判決。「通則法17条本文の結果発生地とは、加害行為によって直接に侵害された権利が侵害発生時に所在した地を意味し、損害発生地とは異なる概念であって、上記の事実関係によると、結果発生地は日本である」と判示。20条にいう明らかにより密接な関係がある地もないとした。
- 東京地判平成30・1・16(平28(ワ)37041号・平28(ワ)40816号、2018WLJPCA01168015)
本件建物を所有している原告Xら(何れも韓国籍)が、本件土地を所有している被告Yに対し、本件土地について賃借権を有するとの確認を求め、Yが、Xらに対し、本件土地の所有権に基づき、本件建物を収去し、本件土地の明渡し、本件土地の明渡し済みまで賃料相当損害金の支払を求めた事例。被相続人の相続には日本法が適用される(法の適用に関する通則法第41条、韓国国際私法49条2項)との言及がある。
- 東京家判平成30・1・12(平29(家ホ)365号、D1-Law28263568)
米国国籍を有し日本に居住する原告Xが、検察官である被告Yに対し、在B総領事に対する届出によってなされたXと亡C(米国国籍)との離婚は、Xと亡Cとの間の婚姻関係における準拠法となる米国D州法においては無効であると主張して、本件離婚が無効であることの確認を求めた事例(東京高判平成30・7・11の原判決)。離婚の国際裁判管轄に関する所謂昭和39年ルールに依拠しつつ、「、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合、その他これに準ずる場合」に該らないとして管轄否定。
+ 知財高判平成29・12・25(平29(ネ)10081号、裁判所Web)(2020-07中村)
被告Y(カナダ法人)に対し、米国特許権侵害による損害賠償請求権を有しないことの確認を求めた東京地判29・7・27の控訴審判決。特許権侵害に関し別件米国訴訟で問題とされている対象行為はあくまでもXらによる米国国内での行為であることから不法行為地管轄は認められず、また、「本件訴訟は、積極的給付請求訴訟である別件米国訴訟と同様、米国の裁判所において審理をするのにふさわしい事案であるといえる上、被控訴人の応訴の負担や、証拠の所在からしても、日本の裁判所において審理判断することには当事者間の衡平を害し、また,適正かつ迅速な審理の実現を妨げる」特別の事情が存するとして、訴え却下。
- 東京家審平成29・12・8(平29(家)4926号、LEX/DB25560119)
婚姻関係にある当事者間において、妻である申立人X(中国国籍)が、夫である相手方Y(日本人)に対し、婚姻費用の支払を求めた事例。Yの住所が日本にあることから管轄肯定。準拠法については、扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文により、扶養権利者であるXの常居所地法である中国法によるとし、中国法において、Yは、妻であるXと未成年である長女Aを扶養する義務があるとした。
- 東京地判平成29・12・5(平28(ワ)37194号、D1-Law29047718)
亡A(韓国人)の妻である原告X(韓国人)が、Aと前妻との間の子である被告Yに対し、YがAに無断で同人名義の預金口座から合計1億4275万9446円を引き出したと主張し、AのYに対する損害賠償請求権を法定相続分3分の1の割合でXが相続したと主張して、不法行為に基づき損害賠償等請求。被告住所地に基づき管轄肯定。法定相続分の判断につき韓国法を適用(通則法36条)。引き出し行為が日本で行われたことから日本法を不法行為の準拠法とした(通則法17条)。
- 大阪高決平成29・11・28(平29(ラ)953号、判時2373号8頁、判タ1451号127頁、D1-Law28261447)
就籍許可申立に関する大阪家審平成29・7・5の抗告審決定。「Bの父であるEが平成20年…に就籍を許可する審判の通知を受けたことにより、Bは出生により父の日本国籍を取得することになり、この時点において、Bについて、戸籍に記載されておらず、本籍及び戸籍上の氏名がなかったとしても、客観的にみてXに係る本件国籍留保の届出をすることの障害とならないから、これによって、Bが戸籍法104条3項の届出期間内に抗告人に係る本件各届出をすることができなかったということはできない」と判示。
- 東京地判平成29・11・24(平27(ワ)358号、D1-Law29046255、2017WLJPCA11248022)
原告Xが、オンラインカジノの開発・運営を企図し、カンボジアにあるソフトウェア開発等を業務とする法人訴外A及びカジノホテルの経営等を業務とする法人である有限責任会社訴外Bとの交渉を被告Y1に依頼したところ、Yらが共謀の上、偽造契約書に署名させ金銭を詐取したと主張して、Yらに対し、カンボジアの共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、詐取された額の一部の支払を求めた事例。結果発生地としてカンボジア法を適用(通則法17条)。→適切な適用と言えるか。
- 横浜地判平成29・11・17(平26(ワ)5012号、平27(ワ)2782号、平28(ワ)79号、D1-Law28254502)
ベルギーにおけるダイヤモンドリング2個の購入に関する紛争事例。売買契約の代金支払いや共同不法行為に基づく損害賠償等様々な請求がなされているにも拘らず、当事者間に争いがないとして日本法を準拠法とした。
- 名古屋高金沢支判平成29・11・7(家庭の法と裁判15号79頁)
- 東京地判平成29・10・11(平26(ワ)29488号、D1-Law29037783)
原告Xらが、訴外A(日本法人)と被告Y(フィリピン共和国)との間で締結された日本国内のY所有地の開発に係る合意が無効となったことにより、Yが同合意に基づきAから受領した4億8000万円を不当に利得していると主張し、Aが有する不当利得返還請求権をAの債権者の債権者であるXらが代位行使するとして、Yに対し、4億8000万円等の支払を求めた事例。 不当利得に関する準拠法としてフィリピン法を選択(通則法附則3条4項、法例11条1項)。準拠法がフィリピンであること、Yの応訴負担等を考慮しても、本件訴えについて、民訴法3条の9にいう「特別の事情」があると認めることはできないとし管轄肯定。
+ 東京地決平成29・10・10(平成26年(仲)第1号仲裁判断取消事件、判例集等未搭載)(2018-05 小川和茂)
申立人X(マルタ法人)が被申立人Y(パナマ法人)に対し、日本海運集会所海事仲裁委員会TOMACの仲裁廷が下した仲裁判断の取消しを求めた事例。仲裁法44条1項6号、8項所定の取消事由は認められないとして申立棄却。
- 東京地判平成29・10・10(平29年(行ウ)76号、D1-Law29037643)
中国人である原告Xが、処分行政庁に対してした帰化の許可申請に対し不許可決定を受けたことから、本件処分の取消し等を求めた事例。法務大臣は、外国人の帰化を許可するか否かを決する広範な裁量権を有していることに鑑みれば、Xが15年間にわたり本邦に居住し、本邦で日本語を学んで大学及び大学院を出た上、一定程度就労生活を営んでいること等を考慮しても、Xの帰化を許可しなかった処分行政庁の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとは認められないと判示。
- 東京高判平成29・9・21(平28(ネ)2739号、D1-Law2825913)
オマーン法人Aを被保険者とする保険会社との間の再保険契約に基づき再保険金をそれぞれ支払った仏独瑞英の保険会社であるXらが,日本法人であるYに対し、Aによるオマーン国内でのメタノール精製プラント建設に参画したYには同プラント設計に関する注意義務に違反してAに損害を被らせた不法行為があると主張して、Aから代位取得したとしてYに対し不法行為による損害賠償請求を行った事例である東京地判平成28・4・21の控訴審判決。原審同様、日本法上不法行為とならない(通則法22条1項)として請求棄却。
+ 東京地判平成29・9・13(平29(ワ)892号、2017WLJPCA09138010)(2018-12 後友香)
福島原発の廃炉を行うための装置を開発するために設立された日本法人Aの代表取締役であった原告Xが、米国内国歳入庁(IRS)の長官及び職員に対し、税務調査と称しAの全ての銀行取引記録、定款、株主名簿を含むすべての書類、帳簿と帳簿に関連するすべての領収書や書類一式、納税証明並びにすべての契約書及び同意書を提出するよう求めた(「本件提出要請」)ことが、日本国に対する主権侵害行為であるとともに、Aの代表者であるXに対して損害を与える行為であるとして、慰謝料の支払等を求めた事例。結果発生地に基づく我が国の管轄を認めつつも、Xが米国において行っていた経済活動に関し、米国で行われた税務調査に関する不法行為が主張されている事案であること(事案の性質)、Yらの応訴の負担が極めて大きいこと、本件に関する証拠がもっぱら米国内に存することといった事情が認められることから特別の事情があるとして訴え却下(民訴法3条の9)。
- 大阪家審平成29・7・5(平28(家)2165号、D-1Law28261446)
平成20年に日本国籍についての就籍許可審判を得たEの長女Bが、その子である申立人Xについて平成22年に行った出生届が不受理とされたことから、就籍許可を申立てた事例。戸籍法104条3項にいう「『責めに帰することができない事由』の存否は、客観的にみて国籍留保の届出をすることの障害となる事情の有無やその程度を勘案して判断するのが相当である」とし、Eが就籍を許可する審判の通知を受けた日には、同項の「届出をすることができるに至つた」と解するべきであり、申立人に係る出生の届出や国籍留保の意思表示は、同日から14日以内になされるべきであったとして申立却下。
- 東京地判平成29・6・2(平28(ワ)11282号、2017WLJPCA06028005)
亡A(韓国国籍)の相続人である原告Xらが、同じくAの相続人である被告Yらに対し、対象動産等が遺産分割の対象となるAの遺産に含まれる旨の確認及び対象債権が各自の法定相続分に従った割合で帰属したことの確認を求め、被告Y2が対象債権のうち一定額の支払を受けたことが不当利得であると主張して、Y2に対し、法定相続分に従った金額の返還等を求めた事例。相続準拠法として韓国法を適用。
- 広島高判平成29・6・1(判時2350号97頁)
広島湾において牡蠣の養殖業を営んでいる原告・控訴人Xが、カンボジア王国籍のA号が航行中にX所有の牡蠣筏に衝突した事故について、これにより生じた損害の賠償に関する示談交渉、訴訟等を弁護士である被告・被控訴人Yに委任したところ、YがXの損害回復に必要な措置を講ずべき注意義務に違反したため、A号の所有者等から損害賠償を受けることができなくなったと主張して、Yに対し、委任契約の債務不履行による損害賠償等の支払を求めた事例。A号に対する仮差押えの申立て、及び、船舶先取特権に基づく差押え及びその前提としての船舶国籍証書の引渡命令の申立てにつき、「日本の裁判所に管轄が認められ、法廷地法である日本法が適用される。」との言及がある。また、Xが本件船主に対し損害賠償請求権を有していることにつき、通則法17条により日本法が適用されることについての言及がある。
+ 東京地判平成29・5・25(平28(ワ)38168号、2017WLJPCA05258019)(2019-07 楢崎)
アメリカにおける病院、診療所、調剤薬局の診療報酬請求債権(Medical Account Receivables)を投資対象とする金融商品について被告Yと出資契約を締結した原告XがYに対し、同出資契約はYの詐欺により締結されたから民法96条1項によりこれを取り消す、又は同出資契約締結に当たりYが重要事項について事実と異なることを告げ、Xがそれを事実と誤認して契約を締結したため消費者契約法4条1項1号によりこれを取り消すと主張して、不当利得返還請求としてXの出資金の一部である10万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事例。XがYと締結した出資契約には,「本契約の準拠法は,アメリカ合衆国及びネヴァダ州法とし,本契約から生じる一切の紛争については,アメリカ合衆国ネヴァダ州裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。」との規定があった。本件管轄合意は消費者である原告と事業者である被告間の衡平を著しく害するなどの事情があるため公序法に違反し無効とし、また、本件出資契約は,法の適用に関する通則法11条1項にいう消費者契約に当たり,消費者である原告が常居所地法中の特定の強行法規である民法96条1項を適用すべき旨の意思を事業者である被告に表示したことも明らかであるから、本件出資契約の効力については、同条項の適用についても判断すべきことになると判示。擬制自白により請求認容。
東京地判平成29・4・27(平27(ワ)4282号, 平27(ワ)21694号, 平27(ワ)24171号, 平27(ワ)28335号, 平28(ワ)23032号、D1-Law28261398)
我が国に居住する原告Xら及び米国に居住する原告Xら(在米Xら)が、軍命によりいわゆる従軍慰安婦を強制連行していた旨告白したEの発言等を事実として報道する記事や「慰安婦」と「挺身隊」とを混同する記事を被告Y(日本法人)が発行する新聞等に掲載し、これらが誤ったものであるにもかかわらず訂正することなく放置したことによって、いわゆる従軍慰安婦問題に関する誤った事実と見解が真実として世界に広まり、その結果、日本人は、20万人以上の朝鮮人女性を組織的に強制連行して性奴隷として酷使する20世紀最大級の残虐な人権侵害を行い、そうであるにもかかわらずこれを認めない無責任な民族ないし人種であるという二重の不名誉な烙印を押された結果名誉を毀損されたと主張し、さらに、在米Xらは、米国H州の公聴会で公然と罵倒されるなどし、多大な市民生活上の損害も受けたと主張して、Yに対し、在米原告らを除くXらが、民法723条に基づき、名誉回復のための処分として謝罪広告の掲載を求めると共に、在米Xらが、米国名誉毀損法及び米国一般不法行為法に基づき、慰謝料として在米X1人当たり100万円の支払及び名誉回復のための処分として全面広告を掲載して撤回することを求めた事例。在米Xらの請求につき常居所地法である米国法が適用されるとしたものの(通則法17条、19条)、日本法上不法とならないとして請求棄却(同法22条1項)。
- 東京地判平成29・4・25(平26(ワ)29943号、2017WLJPCA04256012)
原告Xが、被告とYの間の離婚訴訟につき、ニューヨーク州裁判所が言い渡した判決のうち、Y[がXに対して養育費及び財産分与等の支払いを命じた部分について執行判決を求めた事例。「人事に関する訴え以外の訴えについては,基本的に我が国の民訴法の定める国際裁判管轄に関する規定に,人事に関する訴えにあっては,基本的に我が国の人事訴訟法等の定める土地管轄に関する規定に,それぞれ準拠しつつ,個々の事案における具体的事情に即して,当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から,条理に照らしてこれを判断すべき」として1号を認めた他、民訴法118条の他の要件も充たしているとして請求認容。
- 東京地判平成29・4・14(平25(ワ)26171号、D-1Law28260646、WLJ)
訴外A(日本法人)から権利を承継した原告Xが、被告Yらに対し、被告Y1(ケイマン法人)の業務執行取締役(Executive Director)及び会長(Chairman)であった被告Y2がAに対してY1の株式の売却を勧誘するに際し、虚偽の説明等をしたため、Aが錯誤に基づきY1株式を売却して損害を被ったと主張し、Y2に対しては民法709条に基づき、被告Y1に対しては会社法350条又は民法715条に基づき、損害賠償の一部請求等を求めた事例。不法行為地により管轄肯定。Y1の責任につき、結果発生地として日本法を適用(通則法17条)。
- 東京地判平成29・4・11(平28(ワ)21739号、2017WLJPCA04116011)
原告X(日本又は韓国に住所を有する)が、被告Y(ニュージャージー州居住)の夫である被相続人A(日本国籍・ニュージャージー州居住)との間で7万米ドルの金銭消費貸借契約及び売買代金5000米ドルでの自動車売買契約を締結していたところ、Aが死亡し、Yを含む法定相続人全員が相続放棄をした結果、上記債務を承継すべき相続人が存在しなくなったとの事実関係を前提として、上記相続放棄はAとYが不動産を共有していたニュージャージー州及びフロリダ州法の採択する統一詐害的譲渡禁止法の定める詐害的譲渡に該当する等と主張して、Yに対し、主位的に上記各契約等に基づく損害賠償を求め(主位的請求)、予備的に、上記相続放棄を詐害行為として取り消すと共に、上記同額の価額賠償を求めた事例。詐害的相続放棄に基づく準拠法がニュージャージー州又はフロリダ州法になることはない(通則法17条)として請求棄却。
- 東京地判平成29・3・30(平28(ワ)38168号、2017WLJPCA03308004)
アメリカにおける病院,診療所,調剤薬局の診療報酬請求債権(Medical Account Receivables)を投資対象とする金融商品について被告Yと出資契約を締結した原告XらがYに対し、同出資契約はYの詐欺により締結されたから民法96条1項によりこれを取り消す、又は同出資契約締結に当たり被告が重要事項について事実と異なることを告げ、Xらがそれを事実と誤認して契約を締結したため消費者契約法4条1項1号によりこれを取り消すと主張して、不当利得返還請求としてXらの各出資金の一部である10万円ずつ及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事例。民訴法改正後に締結された管轄合意は無効であり、それ以前に締結された管轄合意も公序法に反し無効であるとして、管轄肯定。契約準拠法はネヴァダ州法であるが、通則法11条1項により日本民法96条1項をも適用。
- 東京地判平成29・3・29(平28(ワ)6433号、2017WLJPCA03298044)
原告X(外国国籍)が、被告Y(日本法人)との間で2回線についてそれぞれ電気通信役務提供契約を締結した上で、Yの代理店において上記各契約に基づく利用料金を支払おうとしたところ、同代理店のスタッフのミスにより、そのうち1回線の支払しかすることができず、残る1回線に係る上記契約が強制解約されてしまい、その結果、Yによって、データベースにXの未払の記録が報告され、他の企業にそのデータが伝わったことから、名誉を毀損され、精神的損害を受けたなどとして、Yに対し、名誉を回復するのに適当な処分として、データベースから未払の記録を削除し、そのデータを報告した企業にそれを伝えることを求めるとともに、10万円の支払を求めているものと解される事例。不法行為地が日本であるとして管轄肯定。また、結果発生地が日本であるとして日本法を適用(通則法17条)。
- 東京地判平成29・3・27(平26(ワ)15187号、LEX/DB25449372)
被告Y(日本法人)の従業員であった原告Xが、Yの保有する我が国の特許4件、米国の特許1件及び欧州の特許2件に関し、自らはこれらの発明者(共同発明者)の一人であり、遅くとも各特許出願日までにXが有していた特許を受ける権利(特許を受ける権利のX持分)をYに承継させたとして、Yに対し、平成16年改正前特許法35条3項に基づき、相当の対価及び遅延損害金の支払を求めた事例。本件米国発明、本件欧州発明1及び本件欧州発明2に係る「特許を受ける権利に関して原被告間に発生し得る債権債務関係につき,我が国の法律が準拠法となることについては,当事者間に争いがない。」との判示がある。平成18年最高裁判決に基づき、「従業者等が特許法35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については、同条3項及び4項の規定が類推適用される」と判示。
- 東京地判平成29・3・22(平28(ワ)30219号、2017WLJPCA03228010)
被告にYよる勧誘に基づいて、Yの販売する米国における診療報酬請求債権(MARS)を投資対象とする金融商品についてYとの間で出資契約を締結した原告Xらが、Yによる勧誘が詐欺及び重要事項に関する不実告知に当たるので、本件各出資契約を取り消したと主張して、Yに対し、不当利得返還請求。ネヴァダ州裁判所を指定する専属的管轄合意条項の効力につき、一部のXらについては民訴法3条の7第5項により、他の者については、同条項に基づいて、Xらに日本の裁判所での審理の途を絶つことは、はなはだしく不合理であり公序法に反するとして、管轄肯定。
- 横浜地判平成29・3・6(平成28(ワ)1953号、D1-Law28261021)
原告X(中国法人)が、被告Y(日本法人)との間でC市等の地域における稲葉式耕水機の特許出願権及び特許使用権をXが取得する旨の業務提携契約を締結したものの、Y代表者が同耕水機の特許を受ける権利を訴外A又はその代表者Dに譲渡し、Dがその特許を出願したことにより、上記業務提携契約に基づくYの債務が履行不能になったからこれを解除したと主張して、Yに対し、契約解除による原状回復請求権に基づき、上記契約に基づきXがYに支払った契約保証権利金等を求めると共に、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、上記業務提携契約に関して支払われた費用相当額等の支払を求めた事例。本件契約に関し紛争が生じたときの第1審の専属的合意管轄裁判所を横浜地方裁判所としていること、本件契約の目的が日本国内で開発された稲葉式耕水機に関するものであり、日本の会社であるYにおいて技術・ノウハウを提供することが本件契約上の義務の中核となっていること等諸般の事情に照らし、日本法を準拠法とする旨の黙示の合意をしたものと認めるのが相当であると判示。
- 東京地判平成29・2・24(平27(ワ)26071号、LEX/DB25548269)
飲食店の経営等を目的とする日本法人被告Yとの間で労働契約を締結していた原告X(ネパール国籍)が、Yに対し、同契約に基づいて、未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づいて、付加金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事例。日本法による判断。尚、同契約に「いかなる場合でも日本国の規則や法律に従うこと」という準拠法条項があったとの認定有。
- 東京地判平成29・2・15(平28(ワ)12822号、2017WLJPCA02156012)
平成18年改正前証券取引法及び金融商品取引法違反により刑事事件で有罪判決を受けた者である日本居住の原告Xが、ウェブサーバー又はウェブサイトの運営者である被告Yら(日本法人3社及びNY州法人1社)に対し、Yら又はYらの運営するブログ・電子掲示板等の利用者による上記刑事事件に関する報道記事又は投稿記事につき、上記判決から相当期間が経過し、且つ、Xの削除要請を受けたにも拘らず、上記各記事を掲載し続けたことが、Xの人格権乃至プライバシー権を侵害するものであると主張して、人格権による妨害排除請求権に基づき同記事の削除を求めると共に、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料等を求めた事例。NY法人であるY3に対する国際裁判管轄が問題となったが、Xが東京都に居住し、当該記事が日本語で記載され、専ら日本国内で読まれることが想定されたものであるということが出来、日本国内で一定数の読者が当該記事を読んでいることが優に推認されることから、日本国内で結果が発生しており、特別の事情もないとして管轄肯定。日本法による判断(準拠法に関する判断なし)。
+ 東京地判平成29・1・26(平28(ワ)7703号、2017WLJPCA01268002)(2018-05 岩本)
原告X(フランス国籍)が、X及び離婚したXの元の夫である被告Y(日本国籍)を当事者とする事件について英国中央家庭裁判付属家庭裁判所(「本件英国家庭裁判所」)がした判決のうち、Xに対する定期的な一定額の金銭の給付をYに命じた部分について、その執行判決を求めた事例。当該判決が我が国の公序に反するというYの主張を退け請求認容。→我が国での扶養料変更の申立てがなされている事実も関係なし。
- 東京地判平成28・12・20(平27(ワ)31713号、D1-Law29038277)
原告X(日本法人)が、被告Y(米国法人)との間で締結していたYの提供するウェブサイト上のサービス(システム)を利用して商品を出品するための契約は、Yの主張する解約が無効であるからなお有効に存続しているとして、同契約に基づき上記サービスを利用する権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Yによる上記解約は不法行為に該当するとして、Yに対し、損害賠償等の支払を求めた事例。出品契約中準拠法を日本法とする旨の条項があることに言及。
+ 東京家審平成28・12・19(家庭の法と裁判12号67頁、平成27年(家)第4711号及び第4712号、平成27年(家)第4929号及び第4930号、平成27年(家)4931号及び第4932号、平成27年(家)第4933号及び第4934号)(2018-05種村)
カナダ人の両親間において、子らの監護権者指定等が問題となった事例。申立人X・相手方Y・本件子らの住所が何れも日本にあることから管轄肯定。Yの実家の所在からカナダ・ノバスコシア州法を本件子らの本国法とし同一本国法として適用(通則法32条・38条3項)。(東京高決平成29・5・19の原審)
- 東京家立川支判平成28・8・18(平26(家ホ)180号、D1-Law28264858)
日本の戸籍に父の記載を欠き、母をD(韓国籍)とする記載のある第1審原告X(韓国籍)が、自分は亡B(元韓国籍、日本に帰化)と亡C(日本国籍)の子であると主張して、検察官Yに対し、両名との間に実親子関係が存在することの確認を求めた事例。実親子関係の存否を確認する訴えの国際裁判管轄は、被告となるべき者の住所地国のほか、所在地、当事者と当該国の関連性等を総合考慮して判断するのが相当であるとし、具体的事情の下で管轄肯定。亡Bとの関係につき韓国法を、亡Cとの関係につき日本法を適用(通則法29条1項)。
- 名古屋家審平成28・5・26(平28(家イ)1234号、2016WLJPCA05266015)
フィリピン人である申立人Xから日本人である相手方Yに対する認知申立。X、Y、Xの母A(フィリピン人)が日本に住所を有することから管轄肯定。認知準拠法としてYの本国法である日本法(通則法29条1項・2項)を適用し、民法779条にいう嫡出子に当たるかをフィリピン法(A及びAと婚姻中のBの本国法)で判断(通則法28条1項)して、申立認容。
- 大阪家決平成27・5・22(家庭の法と裁判15号116頁)
子(日加の二重国籍)の父である申立人Xが、子の母であり子を監護している相手方Yに対し、Yによる日本での子の留置によりXの子についての監護の権利を侵害されたとして、ハーグ子奪取条約実施法に基づき、子を、常居所地国であるカナダに返還するよう求めた事例。Yによる子の留置は実施法施行後に開始されたとして実施法の適用を肯定し、子の返還事由が認められ、返還拒否事由を認めることは出来ないとして、返還命令。
- 東京高決平成27・3・31(判時2375・2376号200頁、家庭の法と裁判15号122頁)
米国への子らの返還に関する東京家決平成27・2・27の抗告審決定。実施法28条1項5号で考慮すべき「子の意見」は、個別具体的な事情に関するものではなく、「子が常居所地国に返還されることを拒んでいる」か否かについてのものであると判示し、抗告棄却。
- 東京家決平成27・2・27(家庭の法と裁判15号127頁)
本件子らの母である申立人X(日本国籍)が、父である相手方Y(日本国籍)に対し、ハーグ子奪取条約実施法に基づき、米国への子らの返還を求めた事例。本件子らの何れについても同法27条の返還事由が認められ、28条の返還拒否事由は認められないとして、返還命令。
- 東京地判平成26・6・23(平24(ワ)3080号、2014WLJPCA06238007)
メディアやテクノロジー分野への投資を行う会社である原告X(香港に本社を有するケイマン諸島法人)からのマーシャル諸島法人に対する法人格否認を理由とした不法行為に基づく損害賠償請求。擬制自白により請求認容。
- 東京地判平成25・10・25(平22(ワ)46979号、2013WLJPCA10258041)
被相続人A(韓国国籍)の内縁関係にあった原告Xが、土地建物を時効取得したと主張して、その登記名義人である被相続人A(韓国国籍)の子である被告Yに対し、当該土地建物の所有権の確認を求めると共に、所有権に基づき、Yの法定相続分に相当する共有持分について持分移転登記手続を求めた事例。土地建物の所有権に関する準拠法についての判断無。相続につき韓国法を適用(通則法36条)。
- 東京地立川支判平成23・9・22(平20(ワ)2123号、2011WLJPCA09226007)
被告Y1の開設する医院(産婦人科)においてEを分娩したDが、分娩1週間後に死亡し、出生したEも分娩後直ちに死亡したことにつき、同医院の医師であった被告Y2が注意義務・治療義務を怠ったと主張して、D及びEの法定相続人である原告XらがYらに対し不法行為に基づく損害賠償等を請求した事例。中国人Dの相続につき、通則法36条、41条(反致)、中華人民共和国民法通則149条により日本法が準拠法となるとの判示がある。