平成27年度の国際私法に関連する主な裁判例

(冒頭の + は渉外判例研究会で報告済み又は報告予定の裁判であることを示す。)

 平成27年度重要判例解説(有斐閣)のために横溝大教授(名古屋大学)が集めた国際私法関連の裁判例を、同書に重要判例として掲載したもの、それに準ずる重要性を有するもの、その他に分け、各項目ごとに裁判年月日の新しいものを先に記載した。各裁判例の紹介も横溝大教授(名古屋大学)による。前後の年度のリストもあわせて参考にされたい。

1. 平成27年度重要判例解説掲載の裁判例

+ 東京地判平成27・3・31(平成24年(ワ)第30809号、2015WLJPCA03318016、LEX/DB 25525135)(2015-12 嶋)
オーストラリアの銀行である原告が、被告らの子への不動産贈与が詐害行為に当たると主張し、詐害行為取消権に基づく本件贈与の無効を確認した事例。通則法「においては、詐害行為取消権の準拠法についての明文の規定はない。そこで、詐害行為取消権の準拠法について検討すると、詐害行為取消権は、債権の内容の実現のために、責任財産の保全を図るという制度であるから、被保全債権である債権の準拠法によって取消しを認めることができるものである必要があると考えられる。これに加えて、取消の対象となる行為が債務者と第三者である受益者との間の法律行為であることに鑑みると、当該第三者の利益をも考慮する必要があるから、取消しの対象となる法律行為の準拠法によってもその取消を認めることができるものでなければならないというべきである。そうすると、詐害行為取消権の準拠法については、被保全債権である債権の準拠法と取消しの対象となる法律行為の準拠法とを累積的に適用し、双方の法律が認める範囲内において、その行使や効果を認めるのが相当である」とし、日本法とフランス法とを累積適用。
- 最判平成27・3・10(民集69巻2号265頁)
国籍法12条が合憲であると判示。
+ 東京地(中間)判平成27・1・28(判時2258号100頁、2015WLJPCA01288002)(2015-07 高杉)
パナマ法人の船会社である原告Xが、船舶の運航を営む日本法人である被告Yに対し、自己所有の船舶を定期傭船契約に基づいて引き渡したが、Yが契約期間中に更生開始決定を受けたところ、Xの有する傭船料債権が共益債権に当たると主張して、Yの管財人に対しその支払いを求めると共に、同債権が共益債権であることの確認を求めた事例。定期傭船契約中に含まれていたロンドンの仲裁人の仲裁に付託する旨の仲裁合意が問題となった。裁判所は、通則法7条により、定期傭船契約の準拠法が英国法であること、仲裁地がロンドンであることから、英国法を仲裁合意の準拠法とする黙示の合意があったとした。だが、「本件訴訟の本案における中心的な争点は、本件傭船料債権が共益債権に当たるか否かや、本件先行相殺が…禁止されるかという、日本の会社更生法の解釈固有の問題であり、ロンドンの仲裁人が適切に判断することには困難が伴うと考えられること…、英国法上、裁判所の許可等のあると特別な場合を除き、倒産を申立てた会社を相手にして仲裁手続を行うことは許されないものとされていること…に照らすと、当事者において、本件訴訟の本案に係る紛争についてまで、ロンドンの仲裁に付託するとの合意をしたものと解することはできない」と判示。
- 東京地判平成26・12・10(平25(ワ)19126号)
損害賠償に関する米国判決の承認執行。了知可能性により判断するも、翻訳文の添付がないとして2号要件を充たさず。
+ 東京地判平成26・9・5(判時2259号75頁)(2015-12 種村)
日本人間の不貞による名誉棄損・不法行為地管轄・客観的併合・不法行為及び名誉棄損の準拠法・NY州法・20条・22条等。

2. 重要性の高い裁判例

- 最判平成27・7・17(民集69巻5号1253頁)
デラウェア州LLP最高裁。借用概念は放棄し、日本における法人との類似性による実質判断。第1段階は設立準拠法、第2段階は権利の帰属。
- 東京地判平成27・5・19(平21年(ワ)29238号、LEX/DB 25539100)
原告ら及び被告が持分3分の1ずつ共有する建物の家賃のうち、原告らの持分割合に応じた額を被告が法律上の原因なく利得し,そのため原告ら各自に同額の損失を及ぼしたことを理由に,原告ら各自が,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,同額及び遅延損害金の支払等を求た事例。「被告が本件家賃をハワイ州にある銀行の本件預金口座への振込み(米ドルによる。)により受領し,管理していることは当事者間に争いがないところ,これによれば,原告らが主張する不当利得の原因となる事実の発生した地はハワイ州と認められるが,本件家賃が発生しこれを被告が受領した期間中,原告ら及び被告は,いずれも日本に常居所を有しており,被告が日本に居住しながら本件家賃を管理していたことは当事者間に争いがないから,本件家賃についての不当利得の原因となる事実の発生した地は,ハワイ州のほか日本国内も含むものと認めるのが相当である。」「したがって,本件各不当利得返還請求に係る債権の成立及び効力の準拠法は,平成19年1月1日より前の不当利得については法例11条1項(平成18年法律第78号による改正前のもの),同日以後のそれについては法の適用に関する通則法14条により,いずれも日本民法と認められる。」
+ 東京地判平成27・4・28(平成26年(ワ)5011号、LEX/DB 25447270)(2015-10小川)
中国親会社の輸入行為が特許権侵害の教唆・幇助に当たるとして共同不法行為に基づく請求。客観的事実説により関連共同性が示されていないとして訴え却下。
- 東京地判平成27・4・14(平26(ワ)3265号)
香港会社の株式購入に関し、不法行為に基づき送金額と遅延損害金を求めた事例。弁論終了手続終了後に、準拠法を香港法から日本法に変更した変更の申立てが、民訴法143条1項により許されないとした。
+ 知財高判平成27・3・25(LEX/DB 25447172)(2015-07 嶋)
商標権侵害に関する損賠請求。不法行為地+客観的併合より管轄肯定。準拠法については、法例11条及び通則法19条により日本法・ニュージャージー州法を選択適用。通則法21条についても言及。
- 東京地判平成27・3・20(平成24(ワ)6690号)
外国判決承認執行。中国との間に相互の保証がないとして承認執行せず。
- 大阪高決平成27・2・26(平27(ラ)74号)
中国仲裁判断の執行。仲裁法45号2項3号等を充たすとして請求認容。
+ 京都地(中間)判平成27・1・29(平成25年(ワ)第2138号、2015WLJPCA01296002)(2015-07高橋宏司)
日本の裁判所への付加的管轄合意を認めつつ、特段の事情がないとして国際裁判管轄を肯定。
+ 東京地判平成27・1・27(平26(ワ)8305号)(2017-03 金)
米国診療報酬債権を投資対象とする金融商品を被告と締結した原告らが、詐欺による締結として、これを取消し不当利得返還請求を求めた事例。ネヴァダ州裁判所を専属管轄とする管轄条項。民訴法3条の7第5項により管轄合意の効力を否定。3条の4第1項、3条の6により管轄肯定。X2の請求は同条但し書により併合管轄を否定。3条の7第1項により管轄肯定。ネバダ訴訟につき、確定していないことを理由に本件に影響しないとする。
- 大阪地決平成26・12・9(平26(仲)2号)
中国仲裁判断の承認執行。仲裁法45条2項3号・4号・9号が問題となったが、請求認容。
+ 横浜地判平成26・8・6(判時2264号62頁)(2016-05竹下)
韓国法人である被告にカリフォルニア裁判所において損害賠償の訴えを提起された日本法人である原告が、債務不存在確認請求及び営業秘密侵害に基づく損害賠償請求を行った事例。不存在確認請求に関する客観的事実説についての判断。管轄否定。
- 東京地判平成25・12・12(平24(ワ)11877号・平25(ワ)3162号)
相続に関する所有権移転登記手続等請求。遺言の方式につき、遺言の方式の準拠法に関する2条により適式に成立したことを認めた。通則法36条、37条1項、38条3項により相続及び遺言の成立及び効力に関する準拠法を中華民国法とした。
- 名古屋高判平成25・5・17(平24(ネ)1289号)
韓国判決に関する執行判決請求。日本の特許法に関する登録移転手続に関する部分につき、日本の専属管轄を理由に間接管轄認めず。

3. その他の裁判例

- 名古屋地判平成27・7・15(平26(ワ)2272号)
交通事故が日本で起こっていることを理由に通則法17条により日本法。
- 東京地判平成27・6・24(平26(ワ)28504号)
原告が、元配偶者であるY1(フランス人)との婚姻関係の破綻がY1とY2(アメリカ人)との不貞行為にあるとして、共同不法行為に基づく損害賠償請求。原告の主張する加害行為の結果が日本国内において発生するとして、通則法17条により日本法を適用。
- 東京地判平成27・5・22(LEX/DB 25540411)
解雇無効事件。原告の義務を確定する際、「設立準拠法である中国法」が参照された。
+ 東京高判平成27・5・20(平27(ネ)333号、2015WLJPCA05206001)(2016-05 岩本)
東京地判平成26年12月25日の控訴審判決。1号・3号要件につき共に問題なしとして請求認容。
- 東京地判平成27・4・22(平26(ワ)3484号)
原告が、原告の代表取締役を殺害した被告(中国国籍)に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を行った事例。相続につき、中国法からの反致を認め日本法。親権につき32条により中国法。後見につき、35条1項・2項により日本法。(東京地判平成27・2・6は報告済み)
- 東京地判平成27・4・21(平25(ワ)24874号・平25(ワ)31819号)
韓国人の相続に関する相続税納付を巡る争い。36条により韓国法選択。不当利得その他につき準拠法の判断無。
- 名古屋地判平成27・3・27(平25(ワ)332号・平25(ワ)864号・平25(ワ)1803号・平25(ワ)2684号・平26(ワ)2067号)
日本国内での自動車交通事故に基づく損害賠償請求。被告が中国国籍であるものの、不法行為地が日本であるとして国際裁判管轄を認め準拠法を日本法とする。
+ 東京地判平成27・3・27(平成26年(ワ)第17630号,判タ1421号238頁)(2016-07 西岡)
ロシア法人である原告が日本法人である被告に対し、船舶の燃料にかかる売掛金の支払を求めた事例。ロシアでも訴訟係属。ロシアの裁判所を指定する専属的管轄合意を認めて訴え却下。
- 東京地判平成27・3・25(平24(ワ)23558号)
タイ法人の原告が、代表権を有する取締役であった被告Y1に対し、横領等を理由に不法行為に基づき損害賠償請求。通則法17条、22条によりタイ法と日本法との累積適用。タイ民商法典が日本会社法361条に類似していることを理由に、「タイ法上、取締役報酬を定める株主総会の決議がない場合、これに代わる全株主の同意がない限り、報酬請求権は発生しないものと解される」と判示。
- 東京地判平成27・3・24(平24(ワ)35407号)
基本合意書の準拠法が通則法8条1項、2項、23条によりハワイ州法になるとの言及。
- 名古屋地判平成27・3・20(平24(ワ)5047号・平25(ワ)2082号・平26(ワ)1788号)
日本国内での自動車交通事故に基づく損害賠償請求。加害者及びその相続人の国籍は韓国。不法行為地が日本であることから国際裁判管轄肯定。亡Eの相続に関する準拠法は韓国法。不法行為の準拠法は、不法行為地法である日本民法。
+ 大阪地決平成27・3・17(金商1471号52頁)(2015-10 高橋一章)
JCAAでの仲裁判断につき利益相反事由の開示義務違反があるとして取消が求められた事例。結論否定。
- 東京地判平成27・3・12(平25(行ウ)596号・平25(行ウ)623号・平25(行ウ)624号・平26(行ウ)492号・平26(行ウ)505号・平26(行ウ)506号)2015WLJPCA03128014
帰化許可申請不許可処分取消請求事件。法務大臣の裁量に関する原告の請求を認めず。
- 東京地判平成27・2・25(平24(ワ)12262号)
日本軍の重慶爆撃に対する中国人198名からの慰謝料及び謝罪文交付・掲載請求。国家の権力的作用に基づく公法的法律関係については法例の適用がないとし、適用されるとしても11条2項により不法行為は成立しないと判示。
- 東京地判平成27・2・18(平25(ワ)21383号)
特許権プールに関する不正競争。不法行為地を認め管轄肯定。準拠法も全て日本法。
- 名古屋地判平成27・2・18(平25(ワ)5216号)
日本国内での交通事故により死亡した中国人の遺族からの損害賠償請求。相続準拠法として中国法。
- 東京地判平成27・2・13(判時2265号47頁)
イタリア法人と日本法人との間で締結された製品を継続的に供給し日本法人が日本等で独占的に販売する旨の独占的製品供給契約において、買主の最低購入注文金額義務違反による債務不履行責任が問題となった事例。契約準拠法に関する判断をしていない!
+ 東京地判平成27・2・6(平成25年(ワ)第27308号、LEX/DB 25523768)(2016-05 北澤)
上記東京地判平成27年4月22日と略同様。
+ 宮崎地判平成27・1・23(平成24年(ワ)第606号、LEX/DB 25447058)(2016-05 小野木)
船舶座礁事故に関する損害賠償請求。保険代位に関する請求につき、仲裁合意の効力が及ぶとした。
+ 東京地判平成26・12・25(判タ1420号312頁)(2016-05 岩本)
養育費支払に関する米国判決の承認執行。
- 東京地判平成26・12・2(判タ1414号329頁)
モントリオール条約における出訴期間に関する35条1項が問題となった事例。請求棄却。
+ 東京高判平成26・11・17(判時2243号28頁、判タ1409号200頁、平成26年(ネ)第623号、LEX/DB 25505266)(2015-03 加藤紫帆)
管轄合意に関する東京地判平成26・1・14判時2217号68頁の控訴審。
- 名古屋地判平成26・11・7(平25(ワ)4026号・平26(ワ)335号・平26(ワ)519号)
日本における交通事故に関する損害賠償。不法行為地が日本にあるとして管轄を認め、且つ17条により日本法。
- 東京高判平成26・10・29(判時2239号23頁、金商1459号7頁)
製造物責任・法例11条・公海・条理・最密接関連法・日本法。
+ 東京地判平成26・10・17(平24(ワ)35871号、判タ1413号271頁)(2016-03 福井)
日本法人とシンガポール法人とのソフトウェア契約。仲裁条項。通則法7条によりアリゾナ州法を指定し、紛争が仲裁の対象範囲に含まれるとして訴え却下。
- 東京地判平成26・10・7(平成24年(ワ)第24535号、LEX/DB25522046)
香港法人が日本法人に対し、売買契約に基づき未払い代金等の支払を求めた事例。被告の本店所在地により管轄肯定(3条の2第3項)。契約・債権譲渡・相殺の準拠法につき、「貿易会社である原告が,いずれも日本国内向けに販売する商品を対象として行う契約であり,被告が日本国の法人である上,原告の代表者も日本人であること等を総合的に考慮すれば,各当事者は,黙示的に日本法を選択したものと認めることができる。なお,債権譲渡(通則法23条)及び相殺についても,債権の効力の問題と理解されることから,上記同様に日本法が準拠法となる。」と判示。
- 札幌高判平成26・9・30(平成26年(ネ)第187号、平成26年(ネ)第278号、LEX/DB25505481)
中国人労働者からの請求。中国法を準拠法にするという黙示の合意があったとする控訴人の主張を退け、日本法を選択。
- 大阪家審平成26・9・19(判タ1417号395頁、判時2270号96頁)
養育費請求。当事者及び未成年者が日本に住所を有していることから国際裁判管轄を肯定。扶養義務につき、扶養権利者の常居所地法として日本法を適用。
+ 東京地判平成26・9・5(平成25年(ワ)23364号、2014WLJPCA09058017)(2017-10 嶋)
韓国法人同士のインターネットを利用した放送サービスに関する著作隣接権侵害に基づく損賠請求。不法行為地により管轄を認める。不法行為と性質決定した上で、日本法を選択。
- 横浜地判平成26・8・6(判時2264号62頁)
韓国法人である被告にカリフォルニア裁判所において損害賠償の訴えを提起された日本法人である原告が、債務不存在確認請求及び営業秘密侵害に基づく損害賠償請求を行った事例。不存在確認請求に関する客観的事実説についての判断。管轄否定。
- 名古屋地判平成26・6・6(平23(ワ)1724号)
日本での交通事故、死亡した者の相続準拠法が朝鮮民主主義人民共和国法。
- 神戸地判平成26・3・28(交民47巻2号485頁、自保ジャーナル1925号137頁)
日本での交通事故、死亡したAの相続準拠法が韓国法。
+ 横浜地判平成25・8・7(平成22年(ワ)第3604号)(2016-12 早川吉尚=伏原宏太)
- 東京高判平成25・3・15(判タ1407号218頁)
わいせつ画像。