平成24年度重要判例解説用資料

(冒頭の + は渉外判例研究会で報告済み又は報告予定の裁判であることを示す。)

平成22年(その3)

+ 東京地判平成22・6・4(平成19年(ワ)第33008号、平成22年(ワ)第10207号)(2013-03 嶋拓哉)
運送人との上海海事裁判所の管轄合意、運送人の代理店の援用、ヒマラヤ条項、保険代位の準拠法
- 東京地判平成22・7・27(平成17年(ワ)第21650号、平成17年(ワ)第21651号、平成17年(ワ)第21758号、平成19年(ワ)第27594号、平成20年(ワ)第2778号)
神戸港からオランダのロッテルダムに向けて航海する本船(パナマ船籍)に積載した危険物の荷送人である被告(日本法人)が,その注意義務に違反し,本件各貨物等に危険物であることを示す表示をせず,船長に本件各貨物が危険物であることを告知しなかったため,本件コンテナが甲板上ではなく熱源の近くに積載されてしまい,そのため,地中海を航行中に本件事故が発生し,本船の積荷(その荷受人は,複数の国の法人である。)に損害が生じたとして,原告らが被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,賠償金の支払を求めている事件。法例11条1項を適用し、本件は、被告が我が国内において本件各貨物の運送を委託した際の作為又は不作為の注意義務違反を問うものであることを理由に、原因事実発生地(不法行為地)は日本に在るとした。
- 東京地判平成22・11・29(平成17年(ワ)第26847号、平成18年(ワ)第22894号)
先決問題、本国法の認定、反致、婚姻・親子関係の成立、相続
- 東京高判平成22・12・22(平成18年(ネ)第3569号)
外国国家に対する裁判権免除、代理権付与の準拠法

平成23年(その2)

+ 東京地判平成23・3・10(判タ1358号236頁)(国際私法5)(2012-03嶋)
仲裁合意の準拠法についての明示の条項なし。被告の申し立てる仲裁手続は東京で行われ,原告の申し立てる仲裁手続はモナコ公国で行われる旨の仲裁地についての合意。原告が申し立てる仲裁に関しては、その仲裁地であるモナコ公国について適用される法律をもって仲裁契約の準拠法とする旨の黙示の合意がされたものと認めるのが相当。訴え却下。
- 東京地判平成23・3・28(判時2138号48頁)
フィリピン共和国がわが国に有する本件土地に対する地上権の設定についての争い。
- 東京地判平成23・4・26(平成22年(ワ)3160号)
英国法人Aとの間で貨物の英国から日本への運送契約を締結したXから、Aとの間で貨物の運送契約を締結したYに対し、主位的にAを代位してAのYに対する貨物運送契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使、予備的に水濡れ被害に関するYの不法行為に基づく損害賠償請求として,水濡れ被害によりXに生じた損害金の支払を求めた事案。主位的請求についてはAY間の国際的専属管轄の合意に基づいて、また予備的請求については被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されていないことは明らかであるとし、訴えを却下。
+ 東京高決平成23・5・9(家月63巻11号60頁)(2012-06神前)
推定相続人の廃除請求と国際裁判管轄
+ 東京地判平成23・6・7(判タ1368号233頁、平成22年(ワ)第35009号)(2012-09種村)
外国人登録原票の国籍の欄に朝鮮と記載のある被相続人の本国法について、被相続人の死亡時及び過去の住所,常居所,親族の住所,常居所,居所や,本人の意思等を考慮して,いずれの国の法を被相続人の死亡時の本国法とするかを決定すべきであるとし、それを大韓民国の法であると判断した事例。
+ 東京地決平成23・6・13(判時2128号58頁)(2012-11髙橋一章)
仲裁判断取消請求事件。仲裁法44条1項8号。
- 東京地判平成23・7・15(判タ1384号270頁)
海上運送、国際海上物品運送法。日本法の合意。
- 東京地判平成23・7・19(平成19年(行ウ)78号、裁判所ウェブサイト、LEX/DB 25444239)
所得税更正処分取消等請求事件。デラウェア州のリミテッド・パートナーシップの法人該当性。
+ 東京地判平成23・8・18(平成21年(ワ)17736号)(2013-03神前)
韓国人夫婦がわが国に届け出た離婚届について判断。通則法附則2条について「同法による改正前の平成11年12月8日法律151号による改正後の法例(明治31年6月21日法律10号,以下「平成11年改正法例」という。)の規定のうち,現代語化されただけで,実質的な内容に変更がなされなかったものについては,通則法の適用が遡って適用されるという趣旨」と解し、「通則法27条及び25条は,平成11年改正法例16条及び14条の規定に対応するものであるが,同16条及び14条は,平成元年6月28日法律27号により改正された規定である。同法律27号附則2項は,この法律の施行前に生じた事項については,なお従前の例によると規定して,不遡及原則を定めており,同附則の効力は,上記の通則法附則2条,3条の規定の趣旨からしても維持されていると解されるので,結局,昭和49(1974)年1月25日の離婚の有効性は,同法律27号改正前の法例16条本文に基づき,夫の本国法の適用を受けて判断すべきものと解される。」と明確に判断している点が注目される。
- 東京高判平成23・8・30(平成21年(行コ)236号、LEX/DB 25444353)
法人税更正処分取消等請求控訴事件。タックスヘイブン、中国法。
- 東京地判平成23・9・7(判タ1377号236頁、平成22(ワ)20188号)(国際私法4)
原告が,被告との間で,原告がファンドビジネスの創出やファンドに係る事務的な業務をし,その報酬を被告から受領する旨の合意をしたなどとして,被告に対し,同合意に基づき,その報酬の支払を求める事案。裁判所は、原告と被告との間においては,本件レターに係る「レコグニション・フィー」の支払場所を我が国内とする旨の,少なくとも黙示の合意が存したものと認めるのが相当である、としつつ、我が国で審理及び裁判を行うことが当事者間の衡平を害し,また,適正かつ迅速な審理を妨げることとなる特段の事情があると認められるとして,我が国の国際裁判管轄を否定した。
+ 仙台高判平成23・9・22(判タ1367号240頁)(2014-03草間)
仙台地判平成21・3・19の控訴審判決。訴えを却下した一審を支持し、控訴棄却。
- 東京地判平成23・10・28(判時2157号60頁、平成21年(ワ)14156号)
ナウル共和国金融公社の円貨債権を取得した原告から、同債権を保証したナウル共和国に対する請求。一部の請求について、制限免除主義に基づき被告の主権免除を否定し、東京地裁が保証契約上合意されていることを認定し、準拠法条項により日本法によって認容した。
- 知財高判平成23・11・28(平成23年(ネ)第10033号、LEX/DB 25444183)
東京地判平成23・3・2の控訴審判決。台湾USBメモリ。一審判決を引用しつつ控訴棄却。
- 最判平成23・12・8(民集65巻9号3275頁、平成21年(受)602、603号)
北朝鮮映画、ベルヌ条約。
+ 東京地判平成23・12・13(平成22年(ワ)14203号、LEX/DB 25490250)(2013-03金彦叔)
わが国の国際裁判管轄について、「会社法429条1項に基づく請求に係る訴えについても『不法行為に関する訴え』に含まれるものと解する余地がある」とし、民訴法5条9号に基づき、最判平成13・6・8が必要と判断した客観的事実関係は証明されている等として、わが国の国際裁判管轄を肯定した。
- 名古屋地判平成23・12・14(平成19年(行ウ)第50号、平成19年(行ウ)第51号、平成19年(行ウ)第52号、平成20年(行ウ)第29号、平成20年(行ウ)第30号、平成20年(行ウ)第77号、LEX/DB 25480178)
所得税更正処分取消等請求事件。LPS。
- 東京地判平成23・12・27(労判1044号5頁、平成22年(ワ)第24588号)

平成24年(その1)

+ 東京高判平成24・1・18(判時2138号42頁、平成23年(ネ)3041号、LEX/DB 25480472)(国際私法1)(2012-09北澤)
東京地判平成23・3・28の控訴審。フィリピン共和国がわが国に有する本件土地に対する地上権の設定を巡る紛争。合意書の準拠法はフィリピン共和国法であるが、法律行為に基づく物権変動について、債権契約との間に有因であるのか、無因であるのかを含む物権問題については、通則法13条により日本法が準拠法となる等とした。
+ 東京地判平成24・2・3(平成21年(ワ)第37035号、LEX/DB 25492003)(2013-01 森下)
消滅時効の準拠法が問題となった事例
+ 東京地判平成24・2・14(平成22年(ワ)7042号、LEX/DB 25492239)(2013-06山田恒久)
リヒテンシュタインの銀行(被告)の担当者に資産運用・助言を委託したとする原告らからの損害賠償請求。X2の訴えについては、管轄合意を理由に訴えを却下。X1の訴えについては不法行為地の裁判籍の規定に照らしてわが国の国際裁判管轄を肯定したが、請求棄却。
- 知財高判平成24・2・14(平成22年(ネ)第10024号、裁判所ウェブサイト、LEX/DB 25444351)
東京地判平成22・2・10(平成22年重判解1)の控訴審判決。韓国内の原権利者から韓国法人であるTMA社を通じて信託譲渡を受けた著作権に基づく請求については理由なしとし、請求認容額を減額。
+ 知財高判平成24・2・28(平成23年(ネ)第10047号、裁判所ウェブサイト、LEX/DB 25444309)(2012-06木棚)
東京地判平成23・7・11の控訴審判決。控訴棄却。不当利得の準拠法についての判決理由を挿入している。(その後、最決平成25・2・12(平成24年(受)第1177号)にて上告不受理)
- 東京地判平成24・4・27(平成21年(ワ)34203号、裁判所ウェブサイト、LEX/DB 25444916)
職務発明対価支払請求事件。最判平成18・10・17に依拠して判断。
+ 東京地判平成24・5・24(平成21年(ワ)25109号、LEX/DB 25494156)(国際私法2)(2012-01草間)
フランス人原告Xは被告Y1金融機関に雇用され、その後被告Y2金融機関の東京支店長となったが、金融庁等へのXの報告に対して、Yらが報復措置という不法行為を行ったと主張するXが、Yらに対して、賞与の減額分、逸失利益、慰謝料等の損害の一部を請求。裁判所の判断は多岐にわたるが、国際私法に関する点として、Y1に対する請求について不法行為地を理由に国際裁判管轄を肯定したこと、XとY1との雇用契約の準拠法を通則法8条により英国法であるとしたこと、賞与額の減額の不法行為に係る準拠法を通則法17条により日本法としつつ、「XのY1に対する賞与請求権の有無及び内容と表裏の関係にあるというべきであるから,通則法20条に照らし,XとY1の雇用契約の準拠法たる英国法が準拠法となる」としたことが注目される。
+ 東京高判平成24・5・30(平成23年(ネ)186号、LEX/DB 25481880)(2014-01高橋一章)
東京地判平成22・11・30の控訴審。控訴棄却。私的年金制度、仕組債。
+ 東京地判平成24・5・31(平成21年(行ウ)422号、LEX/DB 25494091)(2013-01織田)
国籍確認請求事件。出生時に日本国籍を取得したXが、朝鮮国籍を有する父Aによる認知及び日本国籍離脱の届出により日本国籍を喪失したかが争点。Xが昭和59年改正前国籍法10条1項の「外国の国籍を有する日本国民」といえるか、すなわちAによる認知によりXが朝鮮国籍を取得したかが問題となり、「韓国国籍法と北朝鮮国籍法とのうち上記子により密接な関係がある政府(国)の国籍法を適用する」ことを前提に、「原告の朝鮮国籍の取得の有無については,韓国国籍法が適用される」とし、「我が国の牴触規定である法例は…、韓国が昭和37年に渉外私法を制定…するまでの間,韓国の牴触規定としての役割を果たしていた」とした上で、さらに、Aが法定代理人であったか否かについて昭和39年当時の法例20条を適用するなどして肯定し、結局「Xは、…Aが昭和36年7月7日にXについての認知をしたことにより,韓国国籍法3条2号の規定に基づき,朝鮮国籍を取得し,国籍法10条1項の『外国の国籍を有する日本国民』となり,その後,Aが昭和39年10月14日にXの法定代理人として法務大臣に対しXについての国籍離脱の届出をしたことにより,同条3項の規定に基づき,日本国籍を喪失した」としてXの請求を斥けている。
- 東京地判平成24・5・31(平成21年(ワ)第28388号、LEX/DB 25444600)
楽曲の作詞または作曲をした韓国人である原告らから、カラオケ店を営む被告らに対する損害賠償請求。ベルヌ条約3条(1)(a)及び著作権法6条3号により,本件各楽曲は,我が国の著作権法の保護を受けるとし、原告らの著作権侵害に基づく損害賠償請求については、法例11条を適用し、本件各楽曲の楽曲データを複製し,かつ,公衆送信する行為が行われたのが日本国内であること,我が国の著作権法の保護を受ける著作物の侵害に係る損害が問題とされていることから、原因事実発生地法は日本法であるとして、日本法を準拠法と判断した。また、原告らと韓国音楽著作権協会(KOMCA)との間の信託譲渡に伴う本件各楽曲の著作権の帰属に関しては、本件の著作権の信託譲渡の原因行為である法律行為の成立及び効力については,法例7条1項により韓国法が準拠法となり、本件著作権の譲渡(移転)の第三者に対する効力に係る物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は,保護国の法令である我が国の著作権法が準拠法となるものと解されるとした。そして、本件各楽曲の著作権は,本件相互管理契約発効前に原告らからKOMCAへ信託譲渡されたとし、原告らの請求を棄却した。
- 東京地判平成24・7・11(平成22年(ワ)44305号、裁判所ウェブサイト、LEX/DB 25444909)(国際私法3)
本件商品であるDVDの映像について著作権を有すると主張する原告(韓国法人)から、被告(日本法人)に対する、本件商品の販売、頒布の差止め及び損害賠償請求。著作権に基づく差止請求については,ベルヌ条約5条(2)により,「保護が要求される同盟国の法令」の定めるところによることとなり,我が国の著作権法が適用されるとし、著作権侵害に基づく損害賠償請求については,「法の適用に関する通則法」17条により,不法行為地すなわち被告が本件商品を頒布した地の法である日本法が適用されるとした上で、原告と訴外日本法人との間の本件商品販売契約の原告による解除の有効性については、通則法7条を適用し、日本法を黙示に選択していたとした。