平成23年度重要判例解説用資料

(冒頭の + は渉外判例研究会で報告済み又は報告予定の裁判であることを示す。)

平成21年(その3)

- 那覇家沖縄支審平成21・10・1(家月63巻1号137頁)
3人の未成年子の親権者を母Yと定めてXY間の離婚がなされたのち、Yはいったん単独で家を出て渡米し、米国で再婚したが、その後にYの母が3人の子を連れ出してYに引き渡したという事案について、Yが家を出た日「以降の約9か月間の未成年者らの監護状況に照らせば、その福祉の観点からして、明らかに申立人の方に親権者としての適格性が備えられていた」などとして、未成年者の親権者をYからXに変更した。準拠法選択に関する判示はないが、わが国から米国への子の奪取事案ということができる。

平成22年(その2)

+ 横浜家小田原支審平成22・1・12(家月63巻1号140頁)(2011-07樋爪(関西))
米国人父Y(相手方)が日本人母X(申立人)との婚姻中に、未成年者Aを日本から米国に連れ去り、同国裁判所で、XYの離婚とAに対する共同親権を認める判決がされたが子の監護に関する問題については国際裁判管轄なしとして共同親権を定めた部分が取り消された場合において、Xを親権者と指定したもの。
+ 東京地判平成22・1・29(平成19年(ワ)第10395号)(判タ1334号223頁)(2010-11 小川)(平成23年重判2高杉)
原告主張の共同不法行為による結果はいずれも日本国内において生じるものであるから法適用通則法17条により日本法が準拠法となるとし、同法20条によるフランス法の適用を否定した上で、原告の請求を棄却した事例。
- 福岡高那覇支決平成22・2・23(家月63巻1号134頁)
上記、那覇家沖縄支審平成21・10・1の抗告審。「抗告人Yは、相手方Xと同居して安定した生活を送っていた未成年者らを、Xの意向に反し、原審裁判所における審判手続を無視する形で、未成年者らにとって未知の国であるアメリカ合衆国に連れ出した。このような行為態様にかんがみると、Yの親権者としての適格性には重大な疑義があるといわざるを得ない。」とされ、子の福祉の観点から、未成年者らの親権者をYからXに変更するのが相当であると、抗告が棄却された。
- 東京地判平成22・3・12(判時2085号113頁)
本件は、フィリピンのNGO法人であるXらが、日本の法律事務所であるYとの間で、日本人とフィリピン人の混血児の調査等を行う事業に関し被告が協力及び資金の提供等をする契約を締結したところ、Yが同契約を解約して同事業から撤退するとして以後同事業への協力及び資金の提供を行わなくなったことから、Xらが、Yに対し、同解約が無効であると主張し、上記契約関係存続の確認を求めるとともに債務不履行や名誉毀損を理由にYに損害賠償の支払を求める事案である。裁判所は債務不履行に基づく損害賠償請求のみを認め、その他の請求を棄却した。契約においては準拠法の定めはなく、判決においても準拠法は問題とされていない。
+ 東京地判平成22・4・15(判時2101号67頁、判タ1335号273頁)(2011-06高杉)
カリフォルニア州裁判所の判決に基づき執行判決が求められたが、不法行為の客観的事実関係の証明は未だ足りないものというべきであり、また不法行為の結果発生地の裁判籍がカリフォルニア州に存在することを肯認して米国裁判所のした米国判決を我が国で承認するのは、当事者間の公平、裁判の適性・迅速の理念に合致するものとはいえず、条理にかなうものとはにわかに認められないというべきである等として、請求が棄却された事例
- 知財高決平成22・5・26(判時2108号65頁、判タ1338号147頁)
ドイツ営業秘密。準拠法に関する判示はない。
+ 東京高判平成22・5・27(訟月58巻5号2194頁、判時2115号35頁、平成21年(行コ)第64号)(2012-09横溝)
法人税更正処分等取消請求控訴事件の判示の中で、租税回避行為の否認と準拠法との関係について、「契約に関する準拠法は、当事者の指定により決定されるが(法の適用に関する通則法7条)、本件のような租税回避行為の有無が争点となる事案においては、適用する法律を当事者の自由な選択によって決定させるならば、当事者間の合意によって日本の課税権を制限することが可能となり、著しく課税の公平の原則に反するという看過し難い事態が生ずることになるから、同法42条の適用によって、外国法の適用を排除し、国内公序である日本の私法を適用すべきである。」とした。
- 大阪地判平成22・6・25(労判1011号84頁)
- 名古屋家半田支判平成22・7・14(家月63巻9号73頁)
日本人男性Xからの、フィリピン人妻Aが出産した子Yに対する父子関係不存在確認請求について、AがXの子を懐胎する余地がないことが客観的に明白であるとはいえないとし、本件訴えは子が出生したことを知ってから1年以上経過した後になされた不適法な訴えといわざるを得ないとして、訴えを却下した。準拠法に関する判示はない。
+ 東京家審平成22・7・15(家月63巻5号58頁)(2011-09嶋)
親権者の変更、イラン・イスラム法、公序
- 東京地判平成22・7・30(判時2118号45頁)
オーストラリアのワイン会社Yとわが国の会社Xとの間の、XがYのワインを日本に輸入・販売する旨の契約をYが予告期間を4か月とする、本件販売代理店契約を解約してYの販売代理店を変更する旨の通知をした事案。裁判所はYの行為は債務不履行に当たるとしてXによる損害賠償請求を一部認容した。準拠法に関する判示はない。
- 知財高判平成22・9・29(裁判所ウェブ、平成22年(ネ)第10034号)
ロイヤリティの支払等をめぐる争い。カリフォルニア州法を準拠法とするライセンス契約も関連する事案であったが、「本件訴訟は、日本法を準拠法として、本件基本契約の効力をめぐって我が国の裁判所の審理・判断が求められているのであって、その認定判断に際して、我が国の裁判所が英米法の口頭証拠排除の準則に拘束されるいわれはな」いとされた。
+ 東京地判平成22・9・30(判時2097号77頁、判タ1342号167頁、金商1357号42頁)(2011-09高橋一章)
法人格否認、ケイマン、和解契約の準拠法。「原告Xは、本件和解契約における当事者の地位をAから承継した者が被告Y1であるとの外観が表示されていたという外観信頼の保護を法人格否認の法理の適用を認めるべき実質的理由であると主張しているのであるから、被告Y2に対する法人格否認の法理の適用については、被告Y2の設立準拠法であるケイマン諸島法ではなく、本件和解契約に適用される日本法によるべきである。」としている点が注目される。
- 広島家判平成22・10・21(裁判所ウェブ、平成21年(家ホ)第49号、平成22年(家ホ)第18号)
原告X(日本国籍)が、自らの子として認知した被告Y1(認知当時にフィリピン国籍、その後に日本国籍を取得)に対し認知無効を、Y1の実母である被告Y2(フィリピン国籍)に対して離婚を請求した事案。「フィリピン法においては、事実主義を採用していると解されていることから、フィリピン法は認知に関する準拠法とはいえず、認知無効に関する準拠法ともならない。実際、本件においては、XとY1の血縁上の親子関係がないから、同法による父子関係が認められないことは明らかである。…日本法によって、認知無効が認められるのであれば、XはY1に対し認知無効を求めることができる」とした。
- 福岡高決平成22・10・25(家月63巻8号64頁)
外国人配偶者の通称氏への氏の変更が許可された事例。
- 東京地判平成22・11・30(判時2104号62頁、金法1914号98頁、金商1362号28頁)(控訴審評釈済み)
私的年金制度、仕組債、損害賠償。国際裁判管轄。全国小売酒販組合中央会が原告。複数の被告の中の1名について、外国裁判所を専属的管轄裁判所と指定する国際的専属的裁判管轄の合意が有効に成立したとしつつ、訴えの主観的併合を理由としてわが国の国際裁判管轄を認めるべき特段の事情が存在するとして、国際裁判管轄を肯定している。
- 東京地判平成22・12・8(判時2116号68頁)(控訴審評釈済み)
本件カルテル行為に起因する民事訴訟等における和解金その他の損害の分担について合意協定に必要とされている手続を履践していないとして、訴えが不適法として却下された事例。
+ 東京高判平成22・12・21(判時2112号36頁)(2012-03猪瀬)
仲裁合意を理由として訴えを却下した原判決に対する控訴を棄却した事例。被告が、仲裁地をニューヨークとする仲裁合意が成立していると主張したのに対し、「本件仲裁条項により本件に係る紛争を東京において日本海運集会所の仲裁に付することについて意思の合致があったものと認めるのが相当」としているのが興味深い。

平成23年(その1)

- 大阪地判平成23・1・19(平成19年(行ウ)第191号、裁判所ウェブ)
退去強制令書発付処分取消等請求事件において、日本国籍を有すると主張したXについて、嫡出親子関係の成立やその前提としての婚姻の成立について検討した後に、Xを外国人にあたるとして、請求を棄却した。先決問題に関する言及がなされている。
- 名古屋高判平成23・1・20(家月63巻9号67頁)
上記、名古屋家半田支判平成22・7・14の控訴審。原判決を取り消して請求を認容したが、準拠法に関する判断はされていない。
+ 東京地判平成23・2・15(判タ1350号189頁)(2012-07高橋宏司(関西))
Y会社の日本支店においてマネージングディレクターとして勤務していたXが、Yによる解雇が権利濫用に当たり無効であると主張し、YおよびYの親会社に対して、雇用契約上の地位の確認、賃金の支払いを求めた。Yに対する請求は理由がないとして棄却され、Yの親会社に対する請求は仲裁合意を理由に却下された。
+ 東京地判平成23・3・2(裁判所ウェブ、平成19年(ワ)第31965号)(2011-11小野木)
著作権侵害に基づく損害賠償請求について、法例11条1項および通則法17条を適用し、準拠法となる台湾法および重畳適用される日本法のいずれによっても理由がないとした。
- 名古屋地判平成23・3・24(裁判所ウェブ、平成20年(行ウ)第114号)
X(米国籍)の祖父が、米国ニュージャージー州法に準拠してXを受益者とする信託を設定したところ、この信託行為について相続税法4条1項を適用して贈与税の決定処分等がなされ、Xがその取消しを求めた。Xは本件信託の設定時に本件信託による利益を現に有する地位にあるとは認められず、相続税法4条1項の「受益者」にはあたらないとされ、Xの請求が認容された。狭義の国際私法に関する判示はない。
+ 東京地判平成23・3・25(裁判所ウェブ)(平成20年(ワ)第27220号)(2012-11夏雨)
商標侵害を理由とする損害賠償請求。不法行為の準拠法を法例11条および通則法17条等により定め、中国、台湾、香港の各法を及び日本法により、損害賠償請求を認容した事例。
- 大阪地決平成23・3・25(判時2122号106頁)
中国における仲裁判断に基づく民事執行が許可された事例。
+ 東京地判平成23・3・28(判タ1351号241頁)(2012-03申)
カリフォルニア州裁判所の判決のうち、配偶者の扶養費、夫婦共有財産の不正目的使用金及び未払金等の支払いを命ずる部分を承認し執行判決を認容したもの。請求異議の訴えの反訴は不適法として却下している。
- 広島高判平成23・4・7(裁判所ウェブ、平成22年(ネ)第512号)
上記広島家判平成22・10・21の控訴審
+ 東京高判平成23・6・22(判時2116号64頁)(2011-11小川)
上記、東京地判平成22・12・8の控訴審。
+ 東京地判平成23・7・11(裁判所ウェブ、平成21年(ワ)第10932号)(2012-06木棚)
中国記録映画の複製・翻案であることを理由とする損害賠償請求。著作権法による保護と準拠法
- 大阪地判平成23・7・25(証券取引被害判例セレクト40巻269頁、裁判所ウェブ、LEX/DB 25471916)
私的年金制度、仕組債、損害賠償。国際裁判管轄。不法行為地。Trust Agreementの効力の及ぶ範囲。東京地判平成22・11・30の事案だが、全国小売酒販組合中央会の加入者が原告。不法行為地として国際裁判管轄を肯定。
- 知財高判平成23・7・27(裁判所ウェブ、平成22年(ネ)第10080号、LEX/DB 25443610)
東京地判平成22・9・30(平成21(ワ)6194号)の控訴審。
+ 東京地判平成23・9・15(裁判所ウェブ、平成21年(行ウ)第417号)(2012-01金彦叔)
北朝鮮国籍を有するAによる、特許協力条約(PCT)に基づく国際特許出願に関して、「我が国が国家として承認していない北朝鮮に在住する,北朝鮮の国民であるAらによって行われた,指定国に我が国を含む本件国際出願によっては,我が国と北朝鮮との間に多数国間条約であるPCTに基づく権利義務は生じず,我が国は,北朝鮮における発明の保護を図るために本件国際出願をPCT上の国際出願として取り扱うべき義務を負うものではない」とされた事例。