平成21年度重要判例解説用資料

(冒頭の + は渉外判例研究会で報告済み又は報告予定の裁判であることを示す。)

平成19年(その3)

- 大阪地判平成19・7・12(交通民集40巻4号891頁)
交通事故によりわが国に留学中のオーストラリア人が死亡した事例について、裁判所は、死亡した被害者は留学を終えた後、少なくともオーストラリア連邦における製造業の女性労働者の賃金程度の収入を得る蓋然性があったものと認め、被害者が日本の大学に留学しており、一定の学歴を有していると認められる点は慰謝料において斟酌するものとした。
- 東京地判平成19・12・26(判タ1282号326頁)
原告と被告との間の業務委託契約について、法適用通則法7条を適用し、オーストリア共和国法を準拠法と判断している。

平成20年(その2)

+ 東京地判平成20・2・19(平成19(ワ)29469号)(2010-03岩本)LEX/DB 25451563
被告の原告に対する補償的損害賠償および懲罰的損害賠償を認めたカリフォルニア州裁判所の判決に基づいて、原告が被告に対して、その一部について執行判決を求めた事例である。当該外国判決においては、懲罰的損害20億米ドルを含む28億米ドル余の支払いが命じられていたが、原告は、その一部である4000万米ドルについての執行判決を求めた。裁判所は原告の請求を認めたが、その公序違反性についての判断の中で、本件において原告が執行を求めているのは本件外国判決のうちの補償的損害の賠償を命ずる部分の一部であることから、我が国の公序に反するものとはいえないと指摘している。
+ 福岡地飯塚支判平成20・3・14(判時2014号120頁)(2009-01種村)
アルゼンチンにおける自動車事故において、自動車に同乗し死亡した日本人の両親(原告)から、自動車を運転していた被告に対する損害賠償請求事件について、裁判所は、法例11条1項によりアルゼンチン法が準拠法となると判断しつつ、具体的にどのように損害を算定するかは、法解釈の問題であって、準拠法の問題とは異なるものであるから、当裁判所の行う損害の算定が、アルゼンチンにおいて一般的とされる考え方や同国における裁判例等に拘束されるものではないとし、ライプニッツ方式等に基づいて、原告らにそれぞれ4000万円を超える損害賠償を認めた。
- 東京地判平成20・3・19(判時2023号115頁)
日本人である原告が、香港法人を被告として訴えを提起し、被告は契約上の預託証拠金返還義務を負う他の香港法人(東京支店を有する)と実質的に同一人格であると主張したのに対し、被告と当該別法人とで登録事務所ないし本店所在地、電話番号及びファックス番号を同一とし、当該別法人の取締役の五名中四名が被告の取締役として登記されているといった事実のみをもって、当該別法人と被告とが別人格であることの主張を許さないとするのは相当でない等として、我が国の国際裁判管轄が否定された事例。
+ 青森家十和田支審平成20・3・28(家月60巻12号63頁)(2010-01北澤)(平成21年重判1森田)
米国人夫婦と日本人未成年者との特別養子縁組について、わが国の国際裁判管轄を肯定し、養親となるべき者の本国法を法適用通則法38条3項により米国テネシー州法と認めた上で、隠れた反致により日本法を準拠法として特別養子縁組を認めたもの。
+ 東京地判平成20・4・11(判タ1276号332頁)(2008-11草間)(平成21年重判4黄)
原告と被告との間の、被告の製造する製品を原告が日本国内で販売する旨の販売代理店契約の終了に関する紛争である。裁判所は、契約における、フランスのサン・マロの商事裁判所を唯一の管轄裁判所とする旨の合意を有効と判断し、原告の共同不法行為に基づく損害賠償についても管轄合意の効力は及ぶこと等を指摘して、原告の訴えを却下した。
+ 東京家審平成20・5・7(家月60巻12号71頁)(2009-06 山田恒久)
わが国における離婚において未成年者の親権者とされた者が、わが国における面接交渉事件における調停成立後に、未成年者を連れて米国ペンシルバニア州に転居した事例について、親権者を相手方とする子の監護に関する処分(面接交渉)申立てにつきわが国の国際裁判管轄が否定された事例。
- 東京地判平成20・6・11(判時2028号60頁、判タ1287号251頁)
平成17年改正前商法266条の3に基づく損害賠償請求につき、被告が公示送達による呼出しを受けたが出頭しなかったものの、国際裁判管轄について職権で判断して訴えを却下した事例。裁判所は、意図的な偽装倒産という不法行為に基づく不法行為地の裁判籍については被告等が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されたということはできないとし、また義務履行地の裁判籍については債権者である原告の現在の住所地が日本にあるとしつつ特段の事情により管轄を否定した。
- 最判平成20・7・8(平成20年(オ)第598号、同(受)第719号)(訟月)
戦後補償に関するもの
- 最判平成20・11・11(平成19年(オ)第1239号、同(受)第1447号)(訟月)
戦後補償に関するもの

平成21年(その1)

- 福岡高判H21・2・10(判時2043号89頁、判タ1299号238頁)(平成21年重判2横溝)
福岡地(飯塚支)判平成20・3・14の控訴審。アルゼンチンで生じた交通事故について、アルゼンチン法を不法行為の準拠法とし、アルゼンチン民法の解釈については、アルゼンチンの裁判所の採用する方法によるべきであるとして一審判決を批判しつつ、同法上認められる損害賠償額が著しく低額であること、加害者であるY被害者のA及び被害者の両親で相続人であるXらはいずれも日本国籍を有し日本に常居所があること、Yは旅行中の事故につき日本国内で保険に加入することも可能であったことを挙げて、本件において、損害賠償の範囲につきアルゼンチン法を適用して損害賠償額を算定することは我が国の公序に反するとして、法例33条により同法の適用を排除し我が国の不法行為における損害賠償の範囲によるのが相当であるとした事例。結論として認められた損害賠償金額は、一審とほぼ同額である。
- 知財高判平成21・2・26(判時2053号74頁、LEX/DB 25440465)
職務発明について、最判平成18・10・17に依拠し、外国の特許を受ける権利の譲渡に伴って譲渡人が譲受人に対しその対価を請求できるかどうか等の問題の準拠法を、法適用通則法7条により、第1次的には当事者の意思に従って定められるとしている。
+ 仙台地判平成21・3・19(平成17年(ワ)第772号)(判時2052号72頁、判タ1305号276頁)(2009-06 早川吉)(平成21年重判3不破)
千島列島東方沖合の公海上における船舶衝突に基づく損害賠償請求について、わが国の国際裁判管轄が否定された事例である。裁判所は、まず裁判籍の所在について、民訴法5条10号の管轄の趣旨は、即時の提訴を容易にし訴訟促進を促すことおよび証拠の収集や証拠調べに便利であるということにあると指摘し、原告船が宮城県石巻港に係留されていたのは3日間に過ぎず,本訴提起はそれから1年以上経過した後に既に原告船やその乗組員が日本を離れてからなされたのであるから,民訴法5条10号が最初の到達地に裁判管轄を認めた理由となるべき事情はわが国には全く存在しないなどとして民訴法の規定する裁判籍がわが国内には存在しないとした。裁判所はそれに加えて、乗組員が日本国内に一人もいないこと、本件について本案の審理判断を行う場合にはロシア及びパナマの不法行為法について調査しこれを適切に解釈適用しなければならないこと等から、本件について仙台地方裁判所が本案の審理判断を行うことは、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反すると指摘している。
+ 東京地判平成21・4・30(平成20年(ワ)第3036号、LEX/DB 25440666)(2009-06 小川)
中国法人である原告が、日本法人である被告らに対し、中国のテレビドラマである本件ドラマの著作権侵害に基づく損害賠償及び差止めを求めた事件である。裁判所は、差止請求に関してはベルヌ条約5条(2)により我が国の著作権法を適用し、損害賠償請求に関しては法例11条によって日本法を適用した。また、本件においては、本件ドラマの著作権の譲渡についても準拠法が問題とされ、その原因行為である法律行為の成立及び効力については、法例7条により中国法が準拠法とされ、本件著作権の譲渡(移転)の第三者に対する効力に係る物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は、保護国の法令である我が国の著作権法とされている。
- 知財高判平成21・6・25(平成19年(ネ)第10056号、LEX/DB 25440991)
職務発明について、最判平成18・10・17により特許法旧35条3項、4項の類推適用を行ったものである。判旨の中で裁判所は、「法的独占力の基礎となる当該特許権の効力の及ぶ範囲についての準拠法」について、特許権についての属地主義の原則に照らし当該特許権が登録された国の法律としている。
- 最判平成21・10・16(平成20年(受)第6号)
アメリカ合衆国ジョージア州による解雇は私法的ないし業務管理的な行為に当たるところ、原審が指摘するところは我が国が民事裁判権を行使することが同州による主権的な権能の行使を侵害するおそれがある特段の事情とはいえないとして、同州が我が国の民事裁判権から免除されるとした原審の判断を破棄し、差し戻した事例。

民集62/5-63/3

判時2014-2051

判タ1276-1304

家月60/11-61/10

金法1850-1883

金判1302-1327

労判964-986

訟月54/10-55/9