平成20年度重要判例解説用資料

(冒頭の + は渉外判例研究会で報告済み又は報告予定の裁判であることを示す。)

平成18年(その3)

- 福岡地判平成18・3・29(訟月54巻6号1167頁)
第二次大戦中のいわゆる強制連行・強制労働に基づく損害賠償請求について、国家無答責の法理により民法上の不法行為責任の規定の適用はないなどとして請求を棄却した事例。
- 大阪高判平成18・10・26(判タ1262号311頁)
夫が行方不明となった後に韓国人女性から出生した子とその血縁上の父(韓国籍)との間の親子関係存在確認請求の事案。原審は、韓国民法上、親子関係の確認を求める訴については当事者の一方が死亡したときはその死亡を知った日から1年以内に提起されなければならないことを理由として訴えを却下した。これに対し大阪高裁は、上記の出訴期間の定めは戸籍の記載どおりの親子関係の確認を求める場合には適用されないと解釈することができるとし、韓国法上この解釈をとることができず本件事例にも適用されると解釈せざるを得ないとすれば、本件事例に本件条文を適用することはわが国の公序良俗に反するとして訴えを適法とし、請求を認容した。

平成19年(その2)

- 東京高判平成19・3・14(訟月54巻6号1292頁)
第二次大戦中のいわゆる強制連行・強制労働に基づく損害賠償請求について、国家無答責の法理により民法上の不法行為責任の規定の適用はないなどとして請求を棄却した事例。
- 札幌高判平成19・6・28(訟月54巻6号1362頁)
第二次大戦中のいわゆる強制連行・強制労働に基づく損害賠償請求について、国家無答責の法理により民法上の不法行為責任の規定の適用はないなどとして請求を棄却した事例。
+ 宇都宮家審平成19・7・20(家月59巻12号106頁)(2008-06高杉)(平成20年重判1植松)
日本人とイラン人との夫婦がイラン人未成年者を養子とすることの許可が求められた。裁判所は、養子となる未成年者の住所地ないし常居所地が日本にあることからわが国の国際裁判管轄権を認め、法適用通則法31条により準拠法を定めた。そして裁判所は、一方では、未成年者の本国法について法適用通則法40条1項を適用し、「イランの規則に従い指定される法がない」ことを理由に、未成年者に最も密接な関係がある日本法であるとし、他方ではイラン人の本国法をイスラム法とした上で養子縁組を認めないイスラム法の適用を公序により排除し、結論としてもっぱら日本法により養子縁組を許可している。
+ 東京地決平成19・8・28(判時1991号89頁)(2008-09道垣内)(平成20年重判5竹下)
本件は、韓国法人である債務者の製造に係る製品を訴外会社等に対して販売するために、日本法人である債権者を債務者のエージェントに任命することなどを内容とする債権者と債務者との間の契約について、債務者が更新拒絶をしたのに対し、債権者が本件更新拒絶は有効な更新拒絶とは認められないなどと主張して、契約違反行為禁止等の仮処分命令を申し立てた事案である。裁判所は、保全命令事件の国際裁判管轄について、一般の民事訴訟と同様に、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理に従って決定するのが相当であり、民事保全法12条1項に規定する保全命令事件の管轄裁判所が我が国内にあるときは、原則として、我が国の裁判所に申し立てられた保全命令事件につき、債務者を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが、これらが存在しない場合には、我が国で裁判を行うことが当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に沿う特段の事情がない限り、我が国の国際裁判管轄を否定すべきであるとの一般論を述べた上で、本件においては当事者間に仲裁地を韓国ソウル市とする準拠法(仲裁合意の準拠法は契約中の準拠法合意により韓国法となる)上有効な仲裁合意が存在し、民事保全法12条1項所定の「本案の管轄裁判所」は我が国には存在しないこと、本件申立ては仮差押命令又は係争物に関する仮処分を求めるものではないから、同項所定の「仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所」が管轄裁判所となることもないこと、わが国で裁判を行うことが当事者の公平や裁判の適正・迅速の理念に沿う特段の事情が存在し、本契約に基づく履行請求権を被保全権利とする申立てについて我が国の国際裁判管轄を肯定すべきということもできないことなどを指摘し、申し立てを不適法とした。
+ 東京家判平成19・9・11(家月60巻1号108頁、判時1995号114頁、判タ1255号299頁)(2008-06織田)(平成20年重判6)
オーストラリア人と日本人との夫婦について、オーストラリアにおいて離婚判決がなされたが、わが国において離婚無効確認が請求され、それに対する離婚請求の反訴とともに問題となった。裁判所は、外国離婚判決が有効かどうかは外国判決の承認の問題であるから、民事訴訟法118条の要件を充足する場合に限り、わが国においてその効力が認められるとし、本件外国離婚判決は同条1号及び3号に違反するものであり、わが国においては効力を有しないとした上で、その反訴請求についても日本法を適用して棄却した。
+ 大阪高判平成19・9・13(家月60巻3号38頁)(平成20年重判3林)(2010-09山田)
原告が被告に対し、原告らの実父(死亡)が被告の子であることを認知するよう求めた事件である。一審(大阪家判平成19・1・31(家月60巻3号43頁))は、被告が現在は日本に帰化したことから、「現在の日本の民法による父の認知がなければ、父の本国法を準拠法とする法律関係(父を被相続人とする相続(法例26条)等)において、法律上の父子関係を前提とする権利義務関係が生じないことになる。このことは、嫡出ではない子の親子関係の成立を子の出生当時の父の本国法(法例18条1項)によるか、認知当時の父または子の本国法(同条2項)によるかのいずれを採用しても同様である。」として原告らの認知請求について訴えの利益を認めた上で請求を認容した。しかし本控訴審は、本件父子関係は、当時台湾地域に適用されていた慣習法により認知によることなく、その成立を認めることができるとして、訴えを却下した。
- 知財高判平成19・9・20(平成19年(ネ)第10038号)
大阪地判平成19・3・29(平成18年(ワ)第6264号)の控訴審。確認の利益を否定して訴えを却下。(平成19年重判「動き」で言及済み)
- 東京高判平成19・10・4(判時1997号155頁、労判955号83頁)
東京地判平成18・5・18(平成13年(ワ)第1230号、平成15年(ワ)第2018号)の控訴審。同中間判決(平成17・9・29)とは異なり、主権免除を認めて訴えを却下した。
+ 東京高判平成19・10・10(平成19年(行コ)第212号)(訟月54巻10号2516頁)(2008-06横溝)
ニューヨーク州法に準拠して設立されたLLCが、わが国租税法上の法人に該当するか問題となったさいたま地裁平成19・5・16(平成17年(行ウ)第3号)の控訴審。裁判所は若干の理由を付して控訴棄却した。(平成19年重判「動き」で言及済み)
+ 東京地判平成19・11・28(裁判所HP、平成16年(ワ)第10667号)(LEX/DB 28140016)(2008-11申)(平成20年重判4)
データ伝送方式に関する発明についての特許権の共有持分を有している原告が、ADSLモデム用のチップセット(以下「被告製品」という。)の製造、販売をしている米国法人Y1及びその日本における子会社である被告Y2に対し、被告製品を内蔵したモデムによるADSL通信は、本件発明の技術的範囲に属するとして損害賠償請求等を請求をしている事案である。裁判所はY1に対する国際裁判管轄を不法行為地の裁判籍に依拠して肯定したが、共同不法行為の場合における国際裁判管轄を肯定するために立証すべき客観的事実(最判平成13・6・8(民集55巻4号727頁)参照)は、当該不法行為の実行行為、客観的関連共同性を基礎付ける事実又は幇助若しくは教唆行為についての客観的事実、損害の発生及び事実的因果関係であるとしている。
+ 東京地判平成19・12・14(裁判所HP、平成18年(ワ)第5640, 6062号)(LEX/DB 28140156, 28140157)(2008-03猪瀬)
朝鮮民主主義人民共和国の行政機関である原告X1と、X1との間で本件映画著作権基本契約を締結している原告X2が、同国の国民が著作者である映画を、被告がその放送に係るニュース番組で使用した行為は、X1の著作権を侵害するものであり、X2の利用許諾権を侵害する不法行為に当たるとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。裁判所は、わが国が未承認国である北朝鮮に対し、ベルヌ条約上の義務を負うことはないから、本件各映画著作物は、著作権法6条3号の「条約により我が国が保護の義務を負う著作物」とはいえないとして、請求を棄却した。

平成20年(その1)

+ 甲府地判平成20・2・5(判時2023号134頁、平成16年(ワ)第405号)(2008-09酒井)
日本に観光に来ていた外国人被害者を殺害した加害者に対する、被害者の両親からの損害賠償請求について、日本法を適用しつつ逸失利益を居住国(母国)の基準で算定したもの。
- 名古屋高判平成20・2・28(判時2009号96頁)
名古屋空港近くで航空機が墜落したことに基づく被害者およびその遺族から航空会社および航空機製造メーカーに対して損害賠償が請求された名古屋地判平成15・12・26(判時1854号63頁)の控訴審。一審判決を引用しつつ、本件事故の準拠法について「法例…11条1項の『その原因たる事実の発生したる地』には、当該不法行為による損害の発生地も含まれると解すべきであるから、本件には日本法が適用されることになる。」と補足している。
+ 知財高判平成20・2・28(平成19年(ネ)第10073号)(判時2021号96頁)(2010-01道垣内)
東京地判平成19・8・29(判時2021号108頁)の控訴審。国際裁判管轄および準拠法に関する判断について一審判決をそのまま引用し、結論としても控訴を棄却している。
- 東京高判平成20・3・12(平成19年(行コ)第171号)(金判1290号32頁)
いわゆるレポ取引の性質と課税が問題となった東京地判平成19・4・17の控訴審。控訴棄却。
+ 最三小判平成20・3・18(判時2006号77頁、判タ1269号127頁)(平成20年重判2金)(2010-03 竹下)
韓国人夫婦の実子が、その父が死亡して10年ほど経ってから、夫婦が福祉施設から引き取った子と亡父との間の親子関係不存在確認請求をした事案である。原審が請求を認容したのに対し、最高裁は韓国大法院判決を引用しつつ、韓国民法2条2項にいう権利の濫用に当たるか否か審理を尽くすべきであるとして原判決を破棄し差し戻しをした。なお、差し戻し後の名古屋高判平成20・7・3(平成20年(ネ)第289号)は、請求を棄却している。
+ 知財高判平成20・3・27(裁判所HP、平成19年(ネ)第10095号)(LEX/DB 28140772)(2009-01木棚)
東京地判平成19・10・26の控訴審。原告が、本件譲渡登録の登録名義人である被控訴人に対し、控訴人が本件著作物に係る著作権(以下「本件著作権」という。)を有することの確認を求めると共に、本件著作権に基づく妨害排除請求として、主位的に、本件著作物について控訴人に対する真正な登録名義の回復を原因とする著作権譲渡登録手続をすることを求め、予備的に、本件譲渡登録の抹消登録手続をすることを求めた事案である。裁判所は一審判決を取り消して原告の確認請求および予備的請求を容れたが、準拠法に関する判断はほぼ第一審を踏襲している。
- 最大判平成20・6・4(民集62巻6号1367頁、家月60巻9号49頁)
国籍法3条1項を憲法14条1項に違反するものとし、その違反部分を除いた同項所定の国籍取得の要件が充たされるときは日本国籍を取得するとしたもの。
+ 東京地判平成20・7・4(裁判所HP、平成19年(ワ)第19275号)(LEX/DB 28141650)(2009-03高杉)
日本法人である被告Yが販売した商品が、韓国法人である原告X1が製造し、日本法人X2(X1が製造した商品を日本国内において独占的に販売する権利を許諾されている)が販売する商品の形態を模倣したものであるとして、損害賠償および謝罪広告が求められた事案。裁判所は、損害賠償請求については法例11条1項および法適用通則法17条によりわが国の民法709条が適用されるとし、また謝罪広告については条理により、謝罪広告の請求の対象とされた行為が日本国内で行われ、営業上の利益の侵害も日本国内で生じたことからわが国の不正競争防止法が最密接関係地法として準拠法になるとした。
+ 東京地判平成20・8・29(裁判所HP、平成19年(ワ)第4777号)(LEX/DB 28141979)(2009-01宮澤)
韓国法人である原告Xの発行する書籍が他の出版社の発行する書籍の「海賊版」である旨を指摘する被告Y作成の電子メールの内容及びホームページの記事内容がXの名誉及び信用を毀損するとして、不法行為に基づく損害賠償およびホームページへの謝罪文掲載が請求された事案。裁判所は、「前提事実」の箇所において、本件に適用される法が韓国法であるとしても日本法が累積適用され、日本法の不法行為の要件を満たさなければ、原告の請求は棄却されることになることを指摘し、日本法の不法行為の要件を充足しないとして請求を棄却した。
- 知財高判平成20・12・24(裁判所HP、平成20年(ネ)第10011, 10012号)
朝鮮民主主義人民共和国の行政機関である原告X1と、X1との間で本件映画著作権基本契約を締結している原告X2が、同国の国民が著作者である映画を、被告がその放送に係るニュース番組で使用した行為は、X1の著作権を侵害するものであり、X2の利用許諾権を侵害する不法行為に当たるとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である東京地判平成19・12・14の控訴審。著作権法の保護の対象とならない著作物についても、当該利用行為が社会的相当性を欠くものと評価されるときは、不法行為法上違法とされる場合があり、本件無許諾放映はX2に対する不法行為を構成するとした。(10012号について、国際法2)

民集61/5-9, 62/1-4

判時1981-2013

判タ1251-1275

家月59/11-60/10

金法1820-1849

金判1279-1301

労判944-963

訟月53/9-54/9